7

 どこか現実離れした光景だった。
 観久は楽しげに何かのメロディーを口ずさみながら、脱いだ服を丁寧にたたんでソファーの上に置いてゆく。瑠璃は少しはにかみながらも、やはり制服を脱ぎ始めた。
 部屋に華やいだ雰囲気がただよい始めている。いや、華やいだというには余りにも濃密な、そして淫らなものだ。もし空気の色が見えるのならば、やはりピンク色なのだろうかと思わずにはいられない。
 普通、カラオケボックスのドアには覗き窓がついている。防犯上の理由もあるが、なによりも密室でよからぬ行為をするのを防ぐ目的でつけられているらしい。
 だがこの部屋のドアには窓がない。奥まった場所をわざわざ選んだのには、こういうことを考えてだったのだろうか。
 亜美はブラジャーとショーツ、そしてソックスに靴(もちろん、眼鏡もだが)というスタイルで床にひざまずいている。
 だがその目は、焦点を結ばずあらぬ彼方を見ているようだった。
 彼女は迷っていた。
 はたして今、“これ”をしていいものかどうか。
 体は疼いている。男性が欲しいという欲望はある。その一方で、男としての自分は男に抱かれる事を否定している。
 いや、それは逆で、亜美は男を拒み、悠司が求めているのかもしれない。
 全身で感じるセックスは、悠司の理性にヒビを入れるには充分だった。いざとなれば、体全体が全て性感帯になってしまうようだ。
 それが――怖い。
 以前の亜美は、セックスをしていても冷めていた。心は体に宿らず、超然とした高見から蠢く肉体を見つめている。そんな感じだった。
 しかし今は違う。快楽に容易く溺れてしまう。
 底が見えない。
 自分がつい数時間前にやってしまったこと以上の痴態を人目に晒してしまうのが怖いのだ。
 ここにいたって亜美、いや悠司は気がついた。
 今ならば、自分のアパートに電話することができる。
 しかし体は動かない。
 要するに、怖いのだ。
 もしそこに、『自分』がいたとしたらどうなってしまうのだろう? ただでさえ希薄になりつつある自我が崩壊してしまうような気がして、悠司はそれ以上脚を踏み出せない。
 自分は臆病なのだ。
 悠司と亜美は、同時に気づいた。
 ややロリータめいた顔立ちとは裏腹に、亜美はクールビューティーとして名高かった。テニス部副部長の長狭瞳と共に、一年ながらにして学園でも一、二を争う「お姉様」であった。
 怖いものなどなかった。恐れるものは存在しない。そう思っていた。
 だが今は違う。今までの自分は無知だった。
 いや。知ろうとしなかっただけ。
 目の前を覆っていたヴェールが剥がれ、一気に広い視界が現れたようだ。だが、感動よりも恐怖が先にくる。いかに自分が気ままに生きていたのか、恥ずかしくなるほどだ。
 瑠璃が薄いレモン色のハーフカップのブラジャーを脱ぎかけて、ふと亜美に目をとめた。
「つぐみちゃん、何物思いに耽ってるの? 珍しいわね」
 柔らかなものが背中に張り付いた。瑠璃の胸だ。
 彼女は白人の父とのハーフで、髪は栗色、瞳は鳶色。色白の肌もあいまって、まるで人形のような美少女だ。ゴシックロリータの服は彼女にこそ似合う。まるで名画を見るようなはまり具合なのだ。
「ううん……なんでもない」
 中学部からの親友だ、と記憶が浮かんでくる。彼女とは、いつも一緒に行動している。だからだろうか、亜美の微妙な変化に気付いたのかもしれない。
「ねえ、キスして」
 処女のように固く強ばった亜美に新鮮な驚きを感じつつ、瑠璃は彼女の唇を貪った。
「う……ふーん……」
 小犬のような鼻声をたてながら、亜美はなめらかな瑠璃の舌を受け入れる。舌をからませたり離したり、時に突っつくようにしたりしながら様々なキスを繰り広げる。
 そんな二人の交歓を、少年達が食い入るような視線で見つめていた。
「あなた達もキスしたい?」
 おいてけぼりをされていた布夕の言葉に、三人は一瞬ためらいはしたが、すぐに何回も頭を縦に振った。
「うふふ。お姉さんが君達のファーストキス貰っちゃうねっ♪」
「あ、僕はあそこのお姉さんとさっき……」
「じゃあ、君はお預け!」
 そう言い放つと、布夕は残った二人を抱き寄せ、顔をつかむとあっと言う間に派手な音を立てて少年達の唇を奪ってしまった。
「ごちそうさま。へへっ。初々しい男の子のファーストキスっていいなあ」
 呆気にとられて、布夕を見つめている少年達。
 そんな彼らに胸を押しつけるようにして、布夕は再びキスを見舞った。今度は彼らにも心の用意がある。さっきはお預けされていた彼も、一緒だ。
 キスだけで、彼らのペニスは痛いくらいに天井に向かってそそり立ってしまった。3人とも、まだ半分以上包皮があるのが、どこかこっけいだ。
「まずセックスの前に、女の子の体のことを知っておいて欲しいですね」
 観久は美しい光沢の下着、恐らくシルクのブラジャーとショーツだけになって微笑んでいた。
「そうそう。童貞君って、お尻の穴なのか素股なのかもわかんないからね。観久ちゃんに教えてもらいなさい」
 悪戯っ子のようなきらきら光る瞳で、布夕が続く。そして観久は足を揃えたまま、器用にショーツを脱いだ。
「さあ、御覧なさい」
 閉じた脚を左右に開くと、6つの瞳は一点に集中した。
「うわ、茶色い!」
 次の瞬間、思わず叫んでしまった少年を布夕が後から殴った。
 それも拳骨で。
「女の子にそんなこというもんじゃありません!」
「だ、だって……」
「なあ?」
「うん」
 男三人が情けない表情をして顔をつきあわせる。
「人それぞれ、みんな違うの。処女でもここの色が濃い人もいれば、たくさんエッチしてもピンク色って人もいるのよ。男の子のおちんちんだってそうでしょう? 大きさだって形だって、みんな違うでしょ」
「そんなこと言われても……」
 また布夕が拳を振り上げたのを見て、三人は両手で顔を防御した。
「わ、ごめんなさい、わかりました!」
「すみません、すみません!」
 口々に謝罪する。
「わかればよろしい」
 腕を組んでうなずく布夕。
 当の本人、観久はその様子をにこにこと笑って見つめている。
「さあ、どなたが私のお相手になってくれますか?」
 誰も前に出ない。
 観久はにこやか……いや、妖艶な笑みを浮かべて、より一層大きく脚を開いた。
「あなた達の固くなったおちんちんを、女の子の、この……」
 小陰唇にあてた人差し指を左右に開き、奥底へ通じる神秘の部分をさらけ出す。
「中に、入れるの。それがセックスですわ」
 少年達は魅入られたように観久の股間に釘付けになっている。観久は指を更に増やし、奥へと突き入れる。そして膣の奥まで見えるように大きく陰唇を割り開いた。
「ほら、中はピンク色でしょう?」
 うっすらと白濁した愛液がこぼれ、スミレ色の蕾へと流れてゆく。
 恐らくこの先、彼らはこんな光景に出会うことは二度とないだろう。あまりにも淫靡な雰囲気が彼らを飲み込んでいる。
「マンガで見たのと、ちょっと違うかも……」
 背丈のわりには少し声の高い少年が、恐る恐る言った。
 彼らは興奮ではなく、ショックを感じたようだった。
 たった1歳とはいえ年上の女性達に囲まれ、おまけに場所が場所だけに、彼らの"それ"は、悲しいくらいに縮こまってしまっていた。しかも、生の女性器を初めて見るのだから無理もない。
「グロテスクかしら? でも、この中からあなた達は産まれたの。あなたのお母様のお腹から、ね」
「なんか、すごく……ちっちゃいっす」
「ふふっ。赤ちゃんを産む時は、ここを切ったりするのよ」
 観久は会陰部――性器と肛門の間を指でなぞって、舌で唇を舐めた。
「き、切るって!?」
「そう。切るの。赤ちゃんを産む時にここが裂けたりするので、あらかじめハサミなどで切ってしまうそうですわ。今は切らないところも多いそうですけれど。それに比べたら、おちんちんなんて小さいものね」
 彼女は桜色の唇を自らの舌で舐め続ける。
 観久は欲情している。彼女の体から発散される、情欲のフェロモンが室内に充満しているのがわかる。牝の匂いで頭がくらくらしてきそうなくらいだ。
「あら。あなた、固くなってきているのね」
 観久が顔を向けた先には、最も大柄な少年が、はちきれそうになっているペニスを両手で隠すのに必死だった。
「では、あなたが私のお相手をして下さるのですね?」
「おっお願いしますっ!」
 がくがく頭を震わせながら、彼は観久におおいかぶさった。
「じゃあ、残りのどっちが私とエッチをしたい?」
「あの……」
「ええっと……」
 瑠璃の誘いにも関わらず二人の視線は、心ここにあらずといった風情の亜美の胸に注がれている。
「やっぱり、男の子っておっぱいが大きい人がいい?」
「そんなこと無いです! お、お姉さん……外国の人みたいで、なんかお人形さんみたいで、触ったら壊れちゃいそうで」
 瑠璃はそう言った小柄な少年を抱きしめ、舌を絡める濃厚なキスをした。彼は目を白黒させ、恐る恐る彼女の背中に手を回した。
「あったかいです……」
「そうよ。セックスって、おちんちんを女の子の中に入れるだけじゃないの。体と体を合わせるのが、本当のセックスなの」
 抱き合ったまま、ついばむようなキスを交わす。
 今まで想像もしたことも無い行為の連続に目を白黒させながら彼は言った。
「お、お姉さんの名前は?」
「那賀乃瑠璃(なかのるり)よ」
「なかの?」
 少年は「か」にアクセントを込めて言った。瑠璃は黙って、彼の固くなったペニスを握ると、軽く雑巾のように絞り上げた。
「ひゃあああぅっ!」
「なかの、るり。アクセントを間違えないでくれる?」
 瑠璃は「な」に力を込めて言った。
「はい、ごめんなさい!」
「わかればいいのよ。発音は大事だから、注意してね」
 そう言うと瑠璃は今の仕打ちを詫びるかのように、しゃがんで少年の股間に顔を埋めると、包皮をつるりと剥いて初々しい亀頭をぱっくりと咥えた。
「う、うわああああっ!」
 初めて味わう強烈な刺激に、少年の膝は震える。
 そして最後に残った少年は、亜美の胸をずっと眺めている。
 ペニスは再び、臨戦状態をとっている。先細りで、包皮が被った亀頭はまだあまり発達していないが、女性を貫くにはこれでも十分だ。
 亜美は、彼を無視しているわけではない。その証拠に、彼が隣に座っておずおずと肩に伸ばした手を払いのけもせず、身を寄せたことからもわかる。
 ここから先は、覚悟が必要だった。
 悠司としての意識は、今も男性を忌避している。自分は異性愛者だ。まだ女性と肌を合わせることはがまんできる。しかし、男が触れると考えただけでぞっとする。
 それなのに、濡れる。
 体の芯に甘い疼きが走り、亜美を絶え間無く責めたてている。
「女の子のおっぱい、見たい?」
 亜美は立ったままの少年に向かって、尋ねた。
「は、はい!」
「女の子の裸を見るのは初めて?」
「は、はい……あ。えっと、お母さんのは、ちょっと」
「うふふ。でも、お母さんと比べないでね」
 自然に言葉が出てきた。
 布夕は、いつもとは違う亜美の様子に驚きながらも、静観を決め込んだ。
 亜美がフルカップのブラジャーを外すと、押さえ込まれていたバストがこぼれ出る。Fカップともなるとブラジャーをつけていた方が楽だが、テニスで鍛えられた筋肉の力もあるのだろう。彼女のバストは重力に負けることなく、ツン、と上向きに形良く震えていた。
「うわっ……」
 静脈がはっきりと見て取れるほどの、抜けるような白い肌。柔らかそうなのに形が崩れていない、絶妙のバランスをもっているようだ。
「触ってみる?」
 亜美は少年に向かって言った。
 実の所、乳首はさっきから痛いくらいに尖りきってしまっている。美しい桜色の突起は、息がかかるだけで甘い刺激が走ってしまいそうだ。
 少年は亜美の目の前にしゃがむと、ゆっくりと乳房に手を伸ばした。
「あ……。温かい、です」
 互いの体温が溶け合ってゆく。それだけで、亜美は満足感に包まれる。
「ゆっくり、ゆっくり触って。でないと、痛いから」
「触ると痛いんですか?」
 驚いたように亜美の顔を見て言う。
「うん。……感じ過ぎちゃうから。乳首も、柔らかく……ね? 強くつまんじゃダメよ」
「はっ、はっは、はいっ!」
 がくがくと首を上下に震わせて豊かなバストに手をはわせてゆく。
「そう。上手よ」
 亜美は彼の手に自分の手を添えて、リードする。
 少年の手がショーツに触れた所で彼女は自分でお尻の方の布地を下に降ろし、耳元で囁いた。
「あとは君が脱がして。私のパンツ、あ・げ・る!」
「ふぁふぁふぁふぁ、はははいっ!」
 震える手でショーツを下にずらしてゆく。だが、視線は胸と顔を行ったり来たりで、まるで定まらない。太腿の途中で止まったショーツを、亜美は自分で取り去って少年の手に押し込んだ。
 まるで熱湯でもかけられたように少年は手を引っ込めたが、亜美の不思議な微笑みを見て、手の中の小さな布切れをぎゅっと握り締めた。
 彼はちらりと横を見て、既に童貞を先に捨てている“先輩”の格好を見て、亜美にのしかかる。
 だが、狙いが定まらない。
「そこじゃなくて、もっと……下よ」
「こ、ここですか?」
 恥ずかしくて見ていられないのか、亜美から顔を逸らして彼は言った。まだ下半身だけを動かしてなんとかしようとしている。
「ちゃんと見て。恥ずかしくなんかないんだから」
 自分の初めての時も、こんな風だったな、と心のどこかで誰かが囁く。
 これは誰だろう? 亜美は挿入を待ちわびながら、自分の心の内を探った。自分で自分を調べているような奇妙な感じがしていた。そう、これは自分だ。自分の心の中だ。最初から考える必要なんか、無い。
「あの……」
 困ったような表情で、少年が亜美を見つめている。
 まだ、入口がどこにあるのか探りかねているようだった。
 仕方ないわねとでも言うように亜美は唇を動かし、彼のペニスをやんわりと指でつかみ、股間へと導いた。
「ここよ。あのね、女の子の場所は、みんな少しずつ違うの。慣れないうちは恥ずかしがらず、ちゃんと見て、手も使ってね。かっこなんかつけるのは、まだ早いわ」
「は、はいっ!」
 先走りの粘液を指先に感じながら、亜美はペニスから指を離した。そして彼は、ゆっくりと腰を突き入れてきた。小ぶりだが、確かな固さと生命に満ち溢れたものが亜美を押し分けて、彼女の内へと突き進んでゆく。
 この瞬間、亜美は二度目の処女を失った。正確には、悠司が自覚しながら、女として初めて、進んで男を受け入れたということになる。
「あ、ああ……」
「あ……はぁぁっ……」
 少年と亜美の二人から同時にため息が漏れた。
 信じられないくらい良かった。
 つい数時間前の繭美との交わりを1だとすれば、5、いや10以上の快感だ。双頭ディルドゥの方よりも小さいのに、そんなものは問題としないくらいの充足感がある。
 落ちる、いや、堕ちる……。
 亜美は震えた。
 悠司は脅えた。
 どこまでも堕ちていける。
 今の自分は、間違いなくそうだった。
 二人は拒もうとしたが、肉体はそれを拒んだ。
「ああああああああああああっ! いいひぃぃぃぃぃっ!!」
 かすれるような、悲鳴にも似た声を亜美は喉から絞り出した。
 稚拙な腰の動きですら容易く彼女から快感を引きずり出す。未成熟な男性器が体の中をこする度に、どろどろとした性欲のマグマが溢れ出す。
 気持ちいい。
 とっても気持ちいい。
 セックスがきもちいい!
 無我夢中で腰を使う少年は、何度もペニスが抜けてはその度に亜美に手で誘導してもらって挿入を果たす。
 やがてじれったくなった亜美は少年の腰に脚を絡め、ぐっと引き寄せた。
「お姉さん……お姉さんっ!」
「押し込むようにして……ん、そう……ぐりぐりってかき回してぇ!」
 なかなか亜美の意図をつかめなかったが、彼女の腰の動きを追うようにしているうちに、コツをつかんだのか、動きが良くなってゆく。
「あらあら。亜美ちゃんったら、いつになく乱れてますのね」
 大柄な少年を下敷にして、騎乗位で思うがままに腰を動かしていた観久が、くすりと笑った。彼はと言えば、生まれて初めての快感に、情けない顔をしつつ必死に射精を堪えている。
「まだですよ。まだ出したらダメですよ? ほら。私のおっぱいを……いいえ、そんなに強くつかんだらいけないわ。女の子の胸は、敏感なんですから」
 少年の手を誘導して、胸を愛撫させ始めた。
 もう一方の瑠璃は、胸をしゃぶられている。
「うふふ。まるで赤ちゃんみたいですね」
 小ぶりなバストは、少年の手の中で面白いように形を変える。乳首はどちらも、涎でべっとりと濡れている。男の方が主導権を握っているように見えるが、実は瑠璃が思うように彼を操っているに過ぎない。
「じゃあ、今度はここを舐めて、きれいにして……」
 さっきの観久のように、ゆっくりと脚を開いてゆく。
 今度は、驚かない。一度は自分のペニスを突っ込んだ所だ。少年は瑠璃の言葉のままにひざまずくと、淡い栗色のヘアーの下へ顔を近づけていった。
 そして亜美はというと、早くも男の方に限界が来ていた。童貞卒業したてのほやほやなのだから仕方がない。少年は感極まって叫ぶ。
「お、お姉さん、もうっダメっですぅっっ!」
「い……いわよ。私の中でたっぷり出して、ね」
 亜美が言い終わるかどうかわからないうちに、ついに限界がきた。
「で、出るぅっ!」
 彼の体が反り返ったと同時に、ペニスが飛び跳ねるように勢いよく精液が飛び出てくる。香り高い若い飛沫を胎内で受け止めて亜美は微笑んだ。悠司の中で魔性の笑みと名付けた、それだ。
 だが、心の中では嫌悪感がどろどろに渦巻いている。
 とうとう中に出されてしまった……。
 一方で、心の中は満足感で溢れているのが恐ろしい。それ以上に、これだけでは足りないと思っているのが、もっと恐ろしかった。
 荒く息を吐いている「男」になった少年を見つめているうちに、亜美は再び心の内からわき上がる欲望を抑えきれなくなっていた。
 良かった? と聞かないのがいい。
 こんな時は、肌と肌、視線で語り合うものだ。
 亜美は少年もまた、次を求めていることを感じ取った。
 括約筋を締め付けるようにして、お腹の方にも力をこめる。言葉にするのは難しいが、その効果はすぐに現れた。
「お姉さん!」
 亜美の中で少年のペニスが力を取り戻してゆく。
「今度は、もっと時間をかけて。ね?」
「は……はい!」
 同時に、激しい突きを亜美に見舞う。
「あ、やん! そこっ! おちんちん、いいっ!」
 ぺたん、ぺたんと音がする。
 間抜けな音だと、頭のどこかで冷めた思考がつぶやく。だがそれも、どこか照れ隠しのような響きをもっている。技巧など関係ない生命の営みの前には、小賢しいテクニックや羞恥など無意味だった。
 部屋の3ヶ所で、同じような音が響いている。残された布夕は手持ち無沙汰にその様子を眺めていたが、やがて何かを思い立ったのか、いそいそと下着も脱いで全裸になり、亜美に近寄っていった。
「お・姉・さ・まっ♪」
 ソファーに腰を下ろし、足を持ち上げられて挿入されている亜美の前、つまり少年の横にどっかりと座ると、彼を邪険に払いのけた。
「はい、じゃまじゃま。亜美ちゃんは、私のお姉様なんだからねっ!」
「ふぇ……へっ!?」
 必死に腰を動かしている最中に退かされ、何がなんだかわからないまま、布夕の剣幕に押されて立ちすくむ。
 そんな彼の股間を見て、彼女はくすっと笑った。
「ま。かわいいおちんちん!」
「み……見ないで下さい」
 布夕の無遠慮な視線に、彼は後ろを向いて前を隠してしまった。
「まあ、いいじゃないの。お姉さんが気持ちよくしてあげますからねえ〜」
 背中に胸をぴったりと押しつけ、彼女は彼の股間に手を伸ばした。
「う、いや、あの、その! い、いいですから、もう!」
「いーのいーの。気にしない気にしない」
 今の彼女は正に小悪魔そのものだった。慌てふためく少年の手をすり抜け、あっという間に股間のものを握ってしまう。
 その瞬間。
「うっ……」
 亜美の中でさんざん刺激を与えられていた敏感な局部の先端から、弱々しい噴出がおきて布夕の手を汚した。
「……はやーい! ついでに少ないの。これでも本当に男の子?」
「ううっ……酷いです」
 実は亜美の中で、既に二度出していた彼であった。いくら若くても続けさまに三度はつらい。しかしそんなことを知らない布夕の言葉に、彼の心に大きなトラウマを残した。
 彼はこの後、長いこと女性恐怖症に悩まされることになる。
 まったく、運が良いのだか悪いのだか……。

***********************************

 4人の少女達が身仕度を整えると、さっきまでの乱っぷりなど微塵も感じさせなかった。対して少年達は、快楽の残滓を惜しむように、3人とも惚けた顔をして空中を見つめている。ほっぺたには、ルージュを引いてつけられたキスマークがべったりとこびりついていた。
「さて、そろそろ時間ですわ。迎えも来ますし」
 観久の言葉で、少女達は荷物を持って立ち上がった。
 3人は我に返り、慌てて言った。
「あの……お姉さん。その、これからも……」
「もちろん、今日だけのおつきあいよ」
「へっ?」
 にこやかに残酷な台詞を言ってのけた瑠璃の言葉に、少年達のアゴが、かっくんと落ちた。美人の年上の女性とセックスした事で、彼女にできたと思っていた彼らの甘い思惑は、一瞬にして打ち砕かれた。
 布夕が舌を出して言った。
「一度抱いたくらいで彼氏気取りなんて、男としてなってないわね。童貞捨てさせてあげたんだから、感謝しなさい」
「そんなあ!」
「でも、素敵な時間でしたわ。男を磨いてきたら、もしかしたらお付き合いするかもしれませんよ?」
 今度は観久が言った。一部の隙も無いその姿からは、つい15分ほど前のしどけない姿が嘘のようだった。豹変、と言ってもいいだろう。
 ――女ってば、怖い。
 少年達の心の中に、深いトラウマが刻み込まれたのは言うまでもなかった。

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