15

 心臓が恐ろしく早く脈打っている。
 もし、今オナニーをしているのがわかったら、彼女はどんな反応をするだろう? 悲鳴を上げて逃げ出すだろうか。
 でも……。
 かおりさんって、美味しいかも。
 濃紺のメイド服は体の線を隠しているが、亜美の豊富な「女性経験」から察するに、彼女はかなりいいスタイルの持ち主だと思われる。
 また亜美の空想上のペニスがびくびくと跳ねた。
 決めた。朝ごはんは、かおりさんにしよう。
 亜美は再び、引き出しの中を漁り始めた。そしてすぐに目的の物を見つけ、股間のディルドゥを引き抜いて、それを装着した。鏡の前に立って具合を確かめてみる。
 亜美が着けているのは、ペニスバンドだった。
 彼女の中に消えている部分にもペニス状のパーツがついていて、しっかりとホールドできるようになっている。
 完璧とまではいかないが、少しでも男の姿に近くなったというだけで満足できる。胸のふくらみはちょっと邪魔におもえるが……。
「かおりさん、こちらに来てください」
 心臓が飛び出しそうになりながら、平静を装って声をかける。
「はい。何の御用でしょうか」
 扉を開けたかおりを抱きしめ、背伸びをして唇を奪う。
 乳首がまるで2本のペニスのように固く勃起している。厚いが柔らかく肌触りのいいメイド服の布地にこすられて、胸から射精してしまいそうだ。このまま胸でオナニーをしたいくらいだった。
 舌を絡めて口腔を責めながら、背中や腰、首筋などに手を這わせて刺激してゆく。最初は抵抗していた彼女も、亜美の巧緻を極めた淫技によって、たちまちのうちに蕩かされてしまう。
 長々とキスをしてから拘束を解くと、かおりは水から上がったくらげのように、ぐんにゃりと崩れ落ちてしまった。頬は紅潮し、半開きになった唇からは舌がわずかに顔をのぞかせ、凌辱者の残り香を惜しんでいるようだった。
 亜美は力無く横たわっているかおりを横向きにして、服を脱がし始める。まだ水滴が残っていた眼鏡のレンズを彼女の服で拭いとり、あっという間に下着だけにしてしまった。
 清潔な、石鹸とメイド服の洗剤の匂いに混じって、わずかな彼女の体臭が亜美の鼻を突く。
 ぞくぞくする。
 薄水色のブラジャーとショーツの上下は、しっかりと体を包む、色気などほとんど度外視した実用一点張りの下着だった。だがそれはかえって彼女の清潔な色気を増幅させる要素になっていた。
 なるほど。男の人がメイドさんに欲情するのも無理ないわね……。
 妙に冷静になって、亜美はかおりを観察する。
 制服というものが男にとって興奮の対象であるとは知っていても、実際に自分で感じてみると理解が深くなるというものだ。こんな制服の美女達の中で生活していて、理性が保てるだろうかと一瞬不安になるほど、亜美はメイド服に対して異常なまでに興奮していた。
 気がつくと、メイド服を手にとって股間の疑似ペニスにこすりつけていた。自分の中に埋もれている部分も動いて少し気持ちがいい。
 まるで男がオナニーをするように腰と手を動かしているが、当然のことだが実物ではないので射精できるはずがない。ゆっくりと昇りつめる快楽曲線にもどかしさを感じながら、亜美はなおも手を動かし続ける。
「ふあ……だめ。こんなのじゃ、全然イけないわ……」
 こんなことを言いながら、服で股間をしごく手は激しさを増す一方だ。胸をぶるぶる震わせながら怪しげな自慰行為にふけっていると、ようやくかおりが正気に戻り始めたようだ。
「あ……お嬢様?」
 まだ半分夢心地といった感じで、亜美を見る。
 ふと、眉がひそめられた。
 目の当たりにしている光景が、彼女の理性では到底理解できるようなものではなかったからだ。目には映っていても、それがいったい何なのか、しばらくの間かおりにはわからなかった。
 まるで高熱を出して寝込んでいるような体の重さに違和感を感じていたが、やがて自分が下着だけの姿になって床に寝転んでいることに気づいた。
「お嬢様、申し訳ございません!」
 慌てて起き上がろうとするが、体は思うように動かない。焦れば焦るほど、心と体のギャップは広がってゆくようだった。
 そして彼女は、亜美の股間にある物体を見て、一瞬硬直した。
「見たのね?」
「み、み、見てません!」
 慌てて目を閉じ、また起き上がろうとする。ようやく体が動いてくれた。いったんうつ伏せ状態になってから立ち上がろうとするかおりを、背後から抱きしめるものがいる。もちろん、亜美だ。
「お嬢様……あの、その……」
「かおりさんってとっても美味しそう」
 耳に息を吹き掛けながら亜美が言う。
「私が男の人になって、かおりさんを犯しちゃうんだから」
「おか、犯すっ!?」
 思わず叫んでしまってから、自分の失態に心の中で舌打ちをする。ハウスキーパー失格だ。どんなことがあっても冷静に、笑顔を忘れず、スムーズに。メイド長の夏野(なつの)さんから叩きこまれたフレーズが頭の中をよぎる。
(こういう時は……こういう時は……ええっと……)
 パニックになった頭を落ち着かせるために、息を大きく吸おうとして上体を起こしたかおりは、背後から顔をねじまげられて強引に再び唇を奪われた。落ち着くどころか、頭の中は真っ白だ。
 たっぷりと亜美に唾液を送り込まれ、その間にブラジャーのホックを外されてしまう。亜美に比べると小さいが、十分標準よりは大きい。少し褐色がかった小さめの乳輪と陥没ぎみの乳首を、亜美は左手で掘り起こし始めた。
 かおりは抵抗する気が完全に失せてしまっていた。
 もう頭の中は、ピンク一色だ。
 一方の亜美もかおりを責めたてながら興奮していた。
 忘れていた感覚が蘇ってきたような気がする。だんだんと下半身に血が集まってくるようだ。
 きた……きた! これだ。この感覚!
 ふとももをきゅっと閉じた拍子に、股間から白い粘液が伝い落ちる。
 血が通わない無機物の作り物に、神経が通ったように感じる。
 私、本当はこれが欲しかったんだ。
 本物のペニスで、女の人を思う存分突きまくりたい。そして膣内にたっぷりと精液を注ぎたい。まだ靴の上から足を掻いているようなもどかしさはあるけれど、少しは男を取り戻せたような気がする。
 亜美は男がするようにかおりの脚を持ち上げて腰を近づけ、作り物の性器を彼女のそれに当て、ゆっくりと挿入した。
 ぬめる媚肉の感触が確かにした。
「え、すごっ……お、お嬢、さまっ!? なんか、これっ……いやあっ!」
「だいじょうぶよ、かおりさん。すぅーぐ良くなるから」
 言葉づかいは亜美のまま、男の気分に浸りきっている亜美は腰をぐいと突きいれる。
「ひいっ!」
「かおりさんのおまんこ、とっても窮屈。あまり使ってないでしょ? 蜘蛛の巣が張っちゃうよ」
「だ、だめです、お嬢様。これいじょ……んふぅんっ!」
 前後の運動が苦痛になるのか、彼女は顔をしかめる。
 だが亜美は、感じるはずのない彼女の膣の感触に驚いていた。全体的にぷりぷりとした締めつけがあり、なんとも気持ちいい。奥に送り込んでゆくと、くびれを締めつけるような個所があった。おもわず射精しそうになって、亜美は一瞬動きを止める。
「ん……お嬢さまぁ〜」
 かおりが鼻にかかった声で亜美を呼び、我に返った。もちろん、作り物のペニスで射精できるわけがない。
「かおりさんって、彼氏いるの?」
 亜美は自分の中の感情の乱れを隠すように、かおりに尋ねた。
「あ、はぁい。……ここしばらく、お互いに忙しくて、予定が、合わなくて、なかなか会えませんけどぉ……」
 日頃のきびきびとした所作が嘘のような緩慢な動きと言葉遣いで、かおりが半ば夢心地なのがわかる。
「セックスはしてるの?」
「はい……ここ半年くらい、してませんけれど……」
「うふふ。だからこんなに濡らしちゃってるのね」
 亜美がかおりの、とさかのような花弁の縁を濡らしている白濁した粘液を指ですくい、クリトリスがあると思われるあたりを指でまさぐった。
「ひゃうっ! お、お嬢様、そこはっ!」
「お嬢様じゃなくて、亜美って呼んでくださいね、かおりさん」
 ひだに阻まれて見えないが、確かに指先に感じる物がある。かなり小さいようだ。しかしここは多くの女性が感じる性感帯なのは間違いない。
 亜美は胸が邪魔だなと思いながら、かおりのクリトリスを指でいじり続ける。しばらくしてかおりが軽く達したのを確認してから、再び抜き挿しを開始する。
「いやぁん……どうして? どうしてこんなに……いいのぉ〜?」
 かおりが漏らした言葉は、亜美と同じ思いだった。
 作り物のペニスなのに、まるで本物のペニスで女性とセックスをしているような感覚がある。もちろんそっくり同じというわけではないが、女性同士のゆるゆると昇りつめて長く続く快感とは違う、直球一直線の鋭いパルスが亜美の頭の中で弾ける。
 どうしてかはわからないが、深く考える余裕は今の亜美にはなかった。
「彼氏と私、どっちがいい?」
「お嬢様ですぅ……すごいのぉ。溶けちゃう……」
 脚を広げて持ち、腰を勢いよく突きいれる。
 美人を犯しているという征服欲に、亜美は酔いしれる。
「お嬢様じゃなくて、亜美。でしょう?」
「あ、はい! 亜美さぁん! いいの……いいのぉ!」
 目をつぶっていれば男に抱かれているような錯覚を感じてしまう。
 バイブレーターを使ったことがないわけではないが、そんなものとは違う質感に彼女は溺れた。
 まるで心中をする前の男女のように、ただひたすら腰を打ちつけあっているうちに、亜美に限界が訪れた。
「いやっ、出ちゃう!」
「いやあ〜っ! い、イッちゃうぅっ!!」
 二人が同時に叫び、クライマックスがやってくる。
 お尻の穴がきゅーっと締まる。続いて、溜めに溜めこんでいた尿を出すような解放感が亜美を襲い、彼女は脱力してかおりの上に倒れこんだ。
 二人は息も荒く、しばらくそのままの姿勢でじっとしていた。
 やがて落ち着いた亜美は、ゆっくりと腰を引いた。抜く時も、かおりの内部が名残を惜しむように疑似ペニスを締めつけるのがわかる。亜美はつい、腰をまた突きいれて、彼女の反応を楽しむ。
「らめぇ……おじょおさま……わらひ、こひがぬけて……」
「かおりさん、かわいいわ」
 亜美は彼女の中から完全にペニスを引き抜き、クリトリスに口付けた。どことなくハーブのような不思議な匂いがする。かおりの体臭なのだろうか?
 亜美はかおりの体中にキスをしてまわった。
 やがて彼女にいつもの冷静さが戻ってくると、慌てて立ち上がろうとしてよろけ、やっとの思いで正座をして亜美に言った。
「あの……お嬢様。お茶も冷めてしまったでしょうし、もう一度お食事の用意をし直して参りますので、離していただけませんか?」
 夏野女史に叩きこまれたメイドとしての躾が、恥ずかしさを上回って、亜美と正対して顔を見て会話をさせる。でも本当は服もすぐ着たいし、この場から一刻も早く去りたかった。
 何よりも、これ以上お嬢様と一緒にいると、本当に亜美に恋をしてしまいそうになりそうな自分が怖かったのだ。
「ダメです」
 亜美はにっこりと笑って答えた。
「だってかおりさんのここ、まだ欲しがっているみたいですよ。彼とうまくいってないんでしょう? お仕事が忙しいなんて、嘘。本当に」
「そう……かもしれません」
 かおりはうつむいて言った。
「彼、電話しても留守電になっていることが多いし、なんとなく遠ざけられてるなって感じてます。……やだ、こんなことお嬢様に言っても仕方がないのに」
「いいわよ。私でよかったら、いくらでも聞いてあげますから」
「そんな……」
 年下の少女に翻弄された上に、自分の身辺事情まで話してしまった自分に、かおりは少し驚いていた。汗が浮かんでいる亜美に、なぜか自分の恋人の姿を一瞬重ねてしまった。
「お嬢……」
「つぐみ、でしょう?」
「はい。亜美さんのこれ……キスマーク、ですよね?」
 かおりは亜美の胸にある赤い斑点を指差して言った。
「誰の、って聞いてもいいですか?」
「秘密です」
 右手を口元にあてて、くすっと笑う。
「そう……そうですよね」
 軽く返されて視線を下げると、半透明の男性器を模した作り物が股間から飛び出ているのが目に入ってしまう。かおりは唾を飲み込んで、ゆっくりとそれに手を伸ばした。
 冷たくはないが、さっきのような熱さは無かった。ただ感じるのは、無機質な固さのみだ。
 まるで男のものを愛撫しているような手付きになっているかおりに、亜美は言った。
「本当は本物のペニスがいいんですけれど、無理ですから」
 寂しそうに言う亜美の表情に、かおりの胸はときめいてしまう。
「私でよかったら、お慰めしてさしあげますから」
「かおりさん……」
 二人はまるで恋人のように寄り添い、頬をこすりつけあってからキスをした。
 こんな美女とセックスができるなんて、まんざら悪くないと亜美は思った。いや、もしかしたら悠司の心なのかもしれない。
 この体は長く快感を楽しめるし、なにしろ避妊を心配しなくてもいい。射精の快感はないが、がまんするべきだろう。これ以上を求めるのは、とんでもなく贅沢なことだ。
 しばらく舌を絡ませあってから、亜美はかおりから体を離した。
「亜美ちゃん?」
「夏野さんに、私の具合が悪いのでかおりさんに今日一日お世話してもらいますって、伝えないといけないでしょう?」
 還暦などとっくに越えているはずなのに背筋がぴしりと伸び、年を感じさせない機敏な動作と声で使用人達を指示する彼女の姿を思い出し、かおりは苦笑いを浮かべた。本当ならばとっくに別の場所に行っていなければならない時間だ。
 その時、まるで亜美の言葉を待っていたように室内電話の呼び出し音が鳴った。亜美は受話ボタンを軽く叩き、ハンズフリーフォンのマイクに向かって言った。
「亜美ですけれど、何か?」
「お嬢様ですか。もうしわけございませんが、浦鋪がそちらにおりませんか」
 やはり夏野だった。
「はい、いますけれど」
「お側におりますか?」
 わずかに硬さを増した口調に、亜美は笑みを浮かべる。
「私、少し調子を崩してしまいましたの。それで、浦鋪さんにお世話してもらっているんです。今日一日、彼女に看病してもらいますから」
「では嵩村先生を……」
「疲れただけですから、今日横になっていれば治ります。それと、今日の予定は全てキャンセルだと東雲にも伝えておいてください」
「かしこまりました」
 ぷつり、と小さな音がして通話が切れた。
「やっぱり怒ってましたね」
「大丈夫。私があとでちゃんと説明するから。かおりさんには迷惑をかけませんわ」
 固い表情のかおりに向かって亜美が言った。そしてまた、彼女の唇を奪う。
(あ。ディルドゥはちゃんと拭いて、消毒しておかなきゃ……でも、いいか)
 ベッドに倒れこみながら、亜美はそんなことを考えていた。
 そして亜美とかおりは寄り添うようにして、その日一日、溶けるようにお互いを求め、眠り続けたのだった。

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