どうにか落ち着いた心は、恋と脱衣所にいた。
「ドライヤーを使うと、地肌が傷んでしまうから・・・・もう少しだけ我慢してね。
それにしても・・・短いのも似合ってる、まるで赤ちゃんみたい」
丁寧に丁寧に、心の髪に残る水分をタオルで吸い取りつつ、声を掛けてくる。
「あんな事があった後だったんですもの、心配でたまらなかったの。
お着替えを持ってくるのが随分遅くなってしまったのに、まだ心ちゃんはお風呂から出て来ないし、
声を掛けても返事もなくって・・・慌てて覗いたら倒れてるんですもの。本当に驚いたんだから・・・・」
「あんなコト・・・?」
気になって、タオルの間から姉を見上げると、その目は涙で潤んでいる。
気遣わしげな眼差しに、訊ねることが躊躇われた。
(姉さんの言葉からすると、あんな事ってのはさっきのアレのコトじゃないみたいだけど・・・一体?)
「もう大丈夫だよ。お姉ちゃん」
「本当に? 無理してないのね?」
「うん」
「それじゃあ、はい。これ」
「ぅ・・・・・・・ありがと・・・」
恋の差し出した衣服を見て、心は内心で絶句する。
何から何まで全て、フリフリのレース付き、薄いふわふわした素材だ。
(さすがにコレは・・・・でも今はコレしかないんだよな。
それにしても、趣味は同じままだ、変わってない・・・・・・・)
記憶にある限り、姉はこういう可愛らしい少女趣味的なものが好きだった。
本人にあまり似合わない為、実際に身に着ける事はほとんどなかったのだが。
さて、どれから身に着けたものか・・・・・心が迷っていると、
「手伝うわ」
恋が物凄く嬉しそうな顔で申し出る。
先ほど風呂で隅々まで見られている、もう別段恥かしがっても仕方ない。
申し出を素直に受けることにする。
タオルを取って、素裸になる。覚悟を決めていても、やはり頬が朱くなる。
白いショーツを受け取り左右の肢を通す。ゆっくり引き上げた。
ピタリと密着するが、股間に直接当たる部分以外は全てレース製で、風通しが良すぎ心許無い。
その上、とんでもなく股上が浅い、なんとか茂みが隠れる程度だ。
身に着けている意味があるのだろうか?激しく疑問だ。
続いてブラジャー、これもショーツと同じくほぼ総レースだ。
「はい、手をこっちに。そう・・・・」
背中側のボタンで留めてもらう。どうやらこのブラは装飾的なモノのようだ。
乳房をふんわりと隠しているだけで、機能的にブラの役割を果せているとは思い難い。
もっとも無いに等しい胸だ、これでも特に困らないが。
振り返り、姉と向き直る。
「ふふっ・・・・・思った通り、とっても似合う。可愛いわ・・・・心ちゃん」
陶然とした表情で呟く。
「・・・・お姉ちゃん?」
「・・・・え? あ・・・なんでもないわ」
慌てて、次を取り上げる。
「はい、それじゃあバンザイしてね。そう、そうよ」
「・・・ん」
これは・・・ネグリジェなのだろうか?まるで裾のやたらと長いキャミソールのような・・・
透けるような薄い布地がレース状になっている。細身で、ひたりと身体に纏わりついてくる。
身に着けていても、下が透けてほとんど丸見えだ。
(まともな服はないのか?)
いい加減、ゲンナリしてくる。
「さあ、これでお終いよ」
今度は一応まともな服のようだ。唯一これだけ、白くない。
前身頃をボタンで合わせる、微妙な丈の黒いワンピ−ス。
ボタンを閉じようとしてくる恋に、
「これくらい・・・自分で出来る・・・」
「あら、そう?」
ボタンを閉じ終わったところで、
「心ちゃん、こっち向いて」
「はい?」
本体と同色のリボンで襟を綴じられる。
長袖で、薄い布地、本体と同色の黒のレースで全体が縁取られている。
胸の下で一度引き絞られるデザイン、姉の気遣いを感じるのは考え過ぎだろうか?
「う〜ん、ちょっといいかしら?」
下から幾つかのボタンを外される。丁度ぎりぎり、ショーツが透けて見えるか見えないか位まで。
(凄いこだわりようだな・・・・しかし、これじゃあ)
まるで『お人形』扱いだ。
「あ〜〜ん、もう、可愛いんだからぁ」
突然抱き締められた。
「お姉ちゃん。愛姉ちゃんが待ってる。急ごう」
「そうね、私も着替えなきゃいけないんだったわ。いきましょう」
恋はさっきからずっと、バスタオルを巻いただけの姿だ。
心の手をとり、台所へと向かう。
「さっきのこと、愛ちゃんには内緒よ?」
「さっきの・・・こと?お風呂の?」
「ええ、そう」
「・・・・うん」
(言えるわけ無いじゃないか、あんな事)