25

(なんだって女の体ってやつはこう……)
 メイド服を脱いで寝床のマットに横になるだけで曲線的な体のラインを意識させられてしまう。
 Fカップのブラは誇らしげに突き出たバストではちきれそうになっている。
 寝間着代わりに例の体操着とブルマに着替えてタオルケットを頭からかぶった。
 ブルマ姿も充分に屈辱的だが、寝間着代わりにはちょうどよかった。
 寝返りをうつたびに凹凸のある自分の体を疎ましく思いながらカイトは眠りについた。
 眠りの中でなにやら夢を見たが、それは意識の表には残らなかった。
 いつしか陽が昇り、鳥がさえずり始めた。
 ごそごそという音が寝ているカイトのそばでした。
「ん……」
 朝の浅い眠りの中でカイトは寝言にもならないむにゃむにゃとした呟きを発する。
 ゆっくり、少しずつカイトは目覚めつつあった。
 何かが、もぞもぞと動いている。カイトと同じタオルケットの下で。
 剥き出しの腿に何かが触った。
「…………?」
 眠りの世界から意識が帰還してくる。
 もぞっ……
 寝ている足下でまた何かが動く気配。
 今度こそ、カイトの意識は急速に覚醒に向かった。
「!?」
 誰かがカイトの粗末な寝床に侵入している。カイトははっきりと悟った。
 いつのまにかカイトは開脚させられていて、腿のあたりに息がかかってる。
 何をされようとしてるのかわからない恐怖にカイトは金縛りのようになって動けなかった。
 こわごわと目を開けたとき、薄いタオルケットの内側でパッとストロボが閃いた。
(……カメラ?)
 それがスイッチのようになって不意にカイトは動けるようになった。
 ばっ!
 タオルケットをめくると、♂カイトが顔をあげた。
「あら。姫君のお目覚めか」
「ななな、なにしてやがる!」
「盗撮」
 と澄ました顔で♂カイトは答えた。
 カイトの下半身に密着した場所でデジカメを構え、またパシャッとシャッターを切った。
 ♂カイトは、ブルマ姿のカイトの下半身を写真に収めていたのだ。
「やっ……!」
 ♂カイトを蹴り出そうとしたが、反対に足首を掴まれ、ブルマを半分だけ脱がされてしまった。
「やめろっ、なにすんだぁ!」
「だから盗撮だって。PSO友達に約束しちゃってさァ。うちの妹のエロ盗撮写真をネットにアップするって」
「妹って……誰が妹だ!」
「へへへ。双子の妹みたいなものじゃん?」
 パシャッ、パシャッ!
 ブルマをずらされ、半分パンティの見える状態でさらに数枚の写真を撮られた。
「んー、まかまかエロく撮れてるね。ポチも見てみる?」
 ♂カイトはデジカメの液晶をカイトに向けた。
 そこには寝乱れた少女の下半身がいやらしく映し出されている。
 下半身だけでなく、体操着の隙間から胸のふくらみの下半分がちらりと写ってる物もある。
(Hくせぇ……)
 カイトの中の、男の思考回路がその映像に反応しかける。
 が、映像の少女は自分自身の姿に他ならない。
 そんな写真をネット上に載せるというのだ。
 自分のブルマ姿がネットを通じてどこぞの脂ぎった男たちに見られることになる……その事実を意識してカイトはゾッとした。
 ゾッとすると同時に、カイトの股間がちゅんと濡れた。
(濡れた……?)
 淫らな姿を誰かに見られるという想像に、カイトの一部分が反応して、興奮していた。
 自分自身の肉体の反応に戸惑い、それを無視しようとしてカイトはことさらに抵抗した。
「もうやめろってば。朝っぱらからこんなことすんなよ!」
 カイトの抵抗はあっけなく力で押さえ込まれた。
「大人しくしてれば、朝食の給仕は免除してあげるから」
 なだめるように♂カイトはいう。
 カイトの抵抗がやんだところを見計らってまた何枚か写真が撮影された。
(もうなんでもいいから早く終わってくれ……)
 カイトの祈りとは裏腹に♂カイトは段々鼻息が荒くなってきた。
(マズイ!)
 カイトは焦った。男だったカイトにはわかる。男だったらこんな状況で朝立ちの余波もあって「催して」くるに違いない。
 案の定、♂カイトの行動にそれが表れた。
 ♂カイトはブルマの股間に指を突っ込んできた。
「うンッ!?」
 くにゅと柔肉を押し割り、ブルマ越しにじわりと指の先が秘裂に割り込んだ。
「ふあっ、ああっ、くっ……!」
 敏感な肉壺の入り口をこじ開けられ、カイトはたまらず喘いだ。
 くちゅ……
 カイトのそこが水気の音を発した。
「あれ……? ポチももしかして、その気になってたの?」
「これは違う! あんたが、へんなことするから……」
「へんなことしたら、ポチは感じちゃったわけだ?」
「くそっ、違うって……ふあああっ!」
 ♂カイトの指を押しやろうとして暴れると、ますます指先が食い込んでくるだけだった。
「も、もうつきあってられるかっ」
 カイトは起き上がろうとしたところを足首を引っ張られて強引に引きずり倒された。
「きゃっ……」
「おとなしくしろよ、ポチのくせに」
 ♂カイトはあからさまに息が荒くなっている。
「ポチは僕のメイドだから何してもいいんだよね」
「やっ、やめっ!」
 ♂カイトのトランクスの股間がそれとわかるほどテントを張ってる。
 いとも簡単に馬乗りにのしかかられてカイトは脅えた。
 乱暴に犯されることが怖くてたまらなかった。
「んんっ!」
 胸を乱暴に鷲掴みにされてカイトは脅えて声をあげた。
(怖い! 怖い! 怖い!)
 心臓が早鐘のように拍った。
(いやだ、怖い。せめて……せめて……)
 せめて、犯すならもっと優しく……
 カイトはそう願ってしまった。
 犯される立場を受け入れてしまったことにカイトは自分で愕然とした。
「ふぅん……」
 ♂カイトは突然、カイトの胸から手を離した。
 まるでカイトの願いを聞き届けたかのように♂カイトは何もしないまま立ち上がった。
「……?」
 荒っぽく犯されることを覚悟して目を瞑っていたカイトだったが、♂カイトが離れていく気配に目を見開いた。
 訝しげなカイトの表情に気付いて♂カイトは皮肉っぽく唇を歪めた。
 ティッシュの箱を手に取りながら♂カイトはいった。
「ポカンとしてるなぁ。……やっぱり最後までいってほしかった?」
 ブンブンとカイトは首を振る。
「フフフ……もっといいことを考えたんだよ。ポチ、これから僕のいう通りにするんだ」
 ♂カイトに命じられて、カイトはグラビアのモデルのようにポーズを取らされた。
 Mの字に尻と膝同時にぺたりとつけた形で座らされ、おまけに体育着の裾を自分で捲っているポーズである。
 ちょうど胸のふくらみの下端が露わになる位置でシャツの裾を固定しなければいけなかった。
 そのポーズのまま動くなと言い置いて、♂カイトはトランクスを下げるとおもむろにオナニーを開始した。
「へへ……生でズリネタにされて、ど、どんな気分さ?」
「なんでこんなことを!」
「それは……ハァ、ハァ……君の、人生を全部、奪うためさ」
 ♂カイトはカイトの目の前で腰を突き出し、これみよがしに自慰に耽った。
 カイトの目は自然と♂カイトの剥き出しの股間へと向いてしまう。
 ♂カイトは気持ちよさそうに時折腰を震わせながら自慰を続けた。
 股間の肉棒が張り詰めてピンと帆柱のように立っている。それを♂カイトの手がスルスルと擦っていく。一つ一つのストロークから生み出される快楽が目に見えるようだった。
 あまりにあけっぴろげなマスターベーションに、カイトは思わず見入っていた。いやらしいポーズをとらされた自分の格好も忘れて……。
 ♂カイトがいよいよ腰を突き出し、吐息混じりにオナニーの理由を口にした。
「こうやって、見せつけたほうが、君は……奪われた物を意識せざるをえないだろう?」
「あ……」
 カイトは我に返って目を逸らした。
 いまの♂カイトの言葉のせいでカイトはいやがおうにも♂カイトの性器を意識してしまう。
 カイトが喪ってしまった……否、奪われた男性の象徴。
 自分の股間に在るのが当たり前だった筈の器官が、すぐ目の前で他人の手によって弄ばれている。
 ♂カイトがペニスで自慰に耽ってる一方、カイトは安いエログラビアのモデルのような格好をさせられているのである。
 見まいととしてもいつしか、カイトの視線はかつて自分のものだった男性自身へと注がれている。
(あれはオレの……)
 心で呟くと、喪失感を叫ぶようにカイトの股間がきゅっと反応した。
 ぴったりと脚のつけねに張り付いたパンティの布に冷たい染みが広がった。
 灼けつくほどの喪失感というものをカイトは生まれて初めて知った。
 股間がちゅんと疼くたびに、ペニスを喪った実感が体に心に刻み込まれる。
 カイトの躰の中心に在るのは、支配者を受け入れるための空洞だった。
 そして支配する側の者はカイトの前で錫杖のように誇らしげに男のモノを屹立させている……
 ペニスを奪われた者として感じるいわれのない屈辱感。女子が普遍に持つというエレクトラ・コンプレックスの感情がカイトを捉えていた。
(それはオレのだ……返せ、返せ!)
 どうしようもない感情に突き動かされて♂カイトのペニスに触れようとしたときだった。
「う、はぁ……」
 呻いて♂カイトは射精した。
 ぴちゃっと白濁液が飛んでカイトの手にかかった。
 精液の生温かいぬくもりにカイトは呆然とする。
 ♂カイトも消耗した顔でどっかりとその場に腰を落とした。消耗してはいても、♂カイトの表情は悦楽に彩られている。
 甘い栗花の匂いがあたりにたちこめた。
 手についたザーメンに虚しく見入るカイト。
 追い討ちをかけるように♂カイトが声を投げかけてきた。
「この快感……君はもう二度と味わえないんだね」
 返すべき言葉は何もなかった。それはまぎれもない事実なのだから。
 カイトはただ唇をぎりぎりと噛んだ。
「へへ、悔しいか? 悔しいだろうなあ。君の全存在は僕のものになってしまって、いまの君はただの生きたズリネタに過ぎないんだものな」
 追い込んだ獲物をさらにいたぶるような♂カイトの言葉だった。
 形にならない怒りの感情がカイトの中で渦巻いた。
 いまのカイトは怒りを暴力という形で噴出させることすらできない。ただ苦しく身を焦がすだけだ。
 なんとか平静さを保とうと苦労するカイトを嘲笑うように、♂カイトは足指の先でカイトの股間をいじった。
「きゃあっ! や、や! やめっ、ンン……冷たぁっ……!」
 濡れたパンティが押しつけられてヒヤリと冷たかった。
「ハハハ、寂しい股間だねぇ。さぞや物足りない思いだろう。そうさ、君のモノはここにあるんだからね」
 いまだ汁のしたたるペニスを拭きながら♂カイトは勝ち誇って笑った。
 打ちのめされたカイトを後目に♂カイトはさっさと立ち上がると制服を身につけた。
 鏡に向かって髪をとかしながら♂カイトはいった。
「こんな綺麗な顔に生まれた君にはわかんないだろうな。ブサイクで根暗って後ろ指をさされて生きたきた人間の気持ちなんて」
「…………」
「だから、奪ってやるのさ! これは僕の復讐なんだ。僕を蔑んで生きてきたおまえのような輩に対する正当な報復行為なんだ!」
 支離滅裂な理屈だ、とカイトは思った。
 だが、♂カイトがこれ以上ないほど本気だということだけはわかる。
 ♂カイトはこれからもカイトの中に残る本来のアイデンティティを全て奪い取ろうとするのだろう……。
 ♂カイトが不意に気味の悪いような作り笑いを浮かべた。
「そんな顔すんなよ、ポチ子。朝ごはんの時間だ、下へ降りよう!」
 ♂カイトは口笛を吹きながら階下へ降りていった。
「…………」
 カイトは手に付着した白濁液を長いこと放心したように眺めていた。
(これはオレの精子なんだ……)
 ちゅぷ、ちゃぷっ……
 精液をすすってのんでも、男に戻れる道理はない。それでもそうせずにはいられなかった。
 淫靡な音を立てて男の精をすするうちに涙がポロポロとこぼれてきた。

 朝の食卓では二人のカイトは何事もなかったかのように振る舞った。
 ♂カイトは新聞を広げた叔父と何やら経済談義をしている。
 カイトは無言でオレンジジュースを飲んでいた。
「……………………」
 ♂カイトとの約束で今朝は給仕役をせずともいい筈である。
 だが、食卓の皆の視線がいたたまれず、結局カイトは席を立った。
 しょせんメイド服を着たカイトが食卓で一緒に食事をしているのは場違いなのだ。
 他に居場所もなく、カイトはメイドとしてその場で立ち働いた。
 家族がみな家を出て初めて、メイドとしての役割から解放されてカイトは一息ついた。
 メイドとしての二日目だった。
 なぜだか、もっと長いこと経っているような気がしてしかたがなかった……。

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