カイトは気が付くと、薄暗くひっそりとした教室の床に寝かされていた。
 窓には全て板が打ちつけてある。そこは、放棄された旧校舎の一室だった。机や椅子はすっかりホコリをかぶっている。
「オレは……」
 とつぶやいた声で、たちまち現実に引き戻された。
 悪夢はまだ終わっていない。
 確かめるまでもなく、カイトの身体は女のままだった。
 素肌の上にいつのまにか着せられた男物のワイシャツは、胸のところで明瞭な曲線を描いて持ち上げられている。
「おやおや、姫がお目覚めのようだ」
「貴様!」
 カイトは教師を殴りつけようとして立ち上がったものの、足がもつれてしまう。
「無理はいけませんよ。君は文字通り、腰が抜けるほど犯されたんですからね」
「殺す。絶対、殺す……!」
「ふむ。ひと休みして憎まれ口を叩けるぐらいには回復したというわけですか」
 そのときカイトはとてつもなく奇妙な感触を覚えた。股間の奥から、ぬるりとした「何か」があふれ出る。
「あ、あ、あ……」
 ぽたり。
 体液が伝い落ちて床にしみを作った。
 男によって凌辱され、犯されてしまったという確かな証拠。
 ムラタは勿論、それを見逃してはいない。ニヤニヤと笑って、カイトの反応を楽しんでいる。
 こぽっ……
 音にするならちょうどそんなだろう。
 女性としての器官の奥に注ぎ込まれたオスの体液がもう一度、逆流してきた。無意識に股間の割れ目を覆った手のひらに、白濁した液が垂れた。
「いやだーーーーっ!!」
「フフフ……ハハハハ……」
 恐慌状態に陥ったカイト。それとは裏腹にムラタは実に愉快そうに笑っていた。
「心配するなよ。そいつは生理食塩水とデンプン質の混合物だ」
「え……」
「疑似精液だよ。どうやらそいつを注ぎ込まれた頃には意識が朦朧としてたようだが」
 そう告げられたからといって、慰めになるものでもない。ただ、ムラタの妙に落ち着いた低い声のせいで、直前までのパニック心理は脱することができた。
「人の心なんて脆いね。クズどもの群れでリーダー格だった君が、少女の肉体に移されただけで、生まれたての子鹿のようにふるえて、泣き叫んでる。じつに興味深いよ」
「あ、あんたは、自分の研究のためにオレをこんな目に遭わせたのか!」
「まさか。趣味に決まってるじゃないか。こんな臨床例を学会発表するわけにもいかないだろう?」
 つかつかとムラタが近寄ってきて、カイトの目の前で足を止める。
「オイオイ、色っぽい格好をしてるな」
「!」
 指摘されるまで、カイトは自分が横座りの姿勢でふとももや、大事な場所を晒したその格好に自覚してなかった。慌てて足を引き寄せ、体育座りのような姿勢になる。そんな自分の反応が、恨めしかった。男の視線を意識させられていることそのものが屈辱だ。
「フフ……君は僕のオモチャなんだよ、カイト君?」
 ムラタの指で顎を持ち上げられ、無理やり視線を合わせられてしまう。
 カイトはだだをこねるように首をふって逃れようとした。
 ちらりとムラタの指に結婚指輪が見えた。
「君の手下……元・手下どもと違ってね。別に性欲処理の相手に困ってるわけじゃない。
 ただ狩りの獲物が欲しいと思ってたんだ」
 そのとき、ムラタの顔にべちゃっとツバがはきかけられた。カイトの精一杯の反撃だった。
 ムラタは落ち着いて、ブランド物のハンカチで顔を拭う。
「それだよ。君のその目。その粗野な反抗心。クズどものリーダーに収まってたという、ちんけなプライド。
 それが狩りの獲物さ。君の精神がその肉体の器に完全に収まるまで、何度でも追い詰め、屈服させてやるよ。すぐに屈服するようじゃつまらない。その点、君は獲物としては上々の部類だよ、カイトくん」
「この……この、キチガイ! てめぇのケツの穴に首突っ込んで死んじまえ!」
「くくく……美少女が下品な言葉をさえずるのもまた悪くないね」
 カイトは歯噛みした。
 どんなに口汚く罵っても、カイトの喉からこぼれ落ちるのは美少女と呼ばれるに相応しい細くて可憐な声音なのだ。小学生の頃、どんなに練習してもリコーダーの高く音が吹き漏れてしまったときのようなもどかしさだ。
 そのとき廊下のほうで人の気配がした。
 職員が見回りにでもきたかと思ってカイトは助けを呼ぼうとした。いまは体面にこだわっていられるような状況じゃない。
 しかし……
 たてつけの悪くなった戸をがたぴしと開けて教室に入ってきたのは、しばらく前に入れ替わりカイトを犯した同級生たちだった。
「先生。言われてたモノ、持ってきましたよ」
「御苦労」
 軽く頷くと、ムラタは生徒から紙袋を受け取った。
 ムラタが中から取り出したのは、大型の犬につけるような鋲付きの首輪だった。普通の首輪と違うのは、小さな錠前が取り付けられている点だけだ。
「まさかそれをオレに!」
「フフ……」
 いち早く察してカイトは手足をばたつかせた。
 走って逃げたいのに、いまのカイトにできるのはせいぜい、もそもそと床を這って後退ることくらいだ。
「そんなに嫌がるなんておかしい子だ。お洒落なチョーカーじゃないか」
「変態! 変態教師ッ!」
「君みたいに淫乱な女の子に変態呼ばわりされてもね」
「オレは……!」
「ディルドに貫かれて、快感のあまりよがり声をあげたのは誰だったっけ?」
「やめろっ、聞きたくねぇ!」
 ムラタの言葉を聞いて、かつての同級生たちが下卑た笑いを浮かべてる。屈辱のあまり心臓が爆発しそうだった。
「そらっ」
「ああっ!?」
 カイトの心が乱れた隙に、ムラタは手早く首輪をカイトの首に巻きつけた。ガチャリと音がすると、それきり首輪は外せなくなった。いくら引っ張ってみても、ビクともしない。
「ケケケ……」
 笑いながら、同級生のひとりが近づいてきた。カイトがさんざん「パシリ」としてコキ使ってきたヤマセという少年だ。
「立ちなよ、カイトくん!」
「うぐっ」
 首輪を掴まれ、無理やり立たされた。
 カイトは首に手をやって呻きながら、ヤマセの動きに従うほかなかった。ヤマセの腕力が凄まじく強く感じた。全く抵抗できる気がしない。自分がいかに非力になったか思い知らされ、愕然とするカイトだった。
「へへへっ、カイトくん……カイトのオッパイは最高に気持ちいいぜぇ」
 そういいながら、ヤマセは乱暴にワイシャツの上から乳房をまさぐってくる。
 触られると吐き気がしてくると同時に、犯されたときの高ぶりが体の奥で目覚めかけた。
 少年の手を払いのけようとして、カイト自身の手が胸にめりこんだ。カイトがこれまでセックスしてきたどんな女よりも柔らかくてふくよかな感触だった。
「へへ……もう顔が赤くなってやがる」
「やろっ……いい加減に、んんっ!?」
 突然口を塞がれてカイトを目を白黒させた。
 ヤマセに強引に唇を奪われたのだ。その上、ヤマセは強引に舌を割り込ませようとしてくる。
「んーっ、んーっ!」
 カイトは涙目になって抗議するが、しっかりと抱き寄せられて抵抗できない。
 いやだ。
 こんなカスみたいなやつにディープ・キスなんて!
 ……内心の叫びはむなしい呻き声にしかならない。
 いましもヤマセの舌が割り入ってこようとしたときだった。
 ムラタがヤマセの肩を掴むと、驚いて振り向いたヤマセの顔面に拳をめり込ませた。
「あばっ……!!?」
「このカスがっ」
 ペッ、とツバを吐き捨てると、ムラタはヤマセの顔と腹を交互にブン殴った。
 たまらず悲鳴をあげ、鼻血を流しながらヤマセは尻餅を付いた。
「先生……」
 ムラタを止めようとした同級生はひと睨みでびびって口をつぐんだ。
「誰がカイトくんを自由にしていいと言いました?」
「ヒィ。ご、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」
「フン。クズはクズらしく僕の指示にだけ従ってればいいんだ」
 カイトはあっけにとられて成り行きを見守っていた。
 ムラタは向き直ると、カイトを上から抱えるように腕を回してきた。
「なにしやがる!」
「いいかい、今日からこの教室が君の飼育小屋だ。明日もここで、たっぷり犯してあげるからね」
「ふ、ふ、ふ……」
 ふざけるな、と怒鳴ろうとしたが、声が震えて言葉の形をなさなかった。
「さて、そろそろ帰らないと妻に怪しまれてしまう。君も消耗してるだろうから今日はもう休みたまえ」
 言葉と相前後してチクリと首筋に痛みを感じた。
 妙な薬品を注射されたのだと気づいたときには、既に抗いがたい睡魔に捕まっていた。
 カイトはフラフラとその場で床に倒れ込んだ。
「おやすみ、カイトくん。明日もまた楽しませてもらうよ。フフフフ……」
 寝息を立て始めたカイトは薄っぺらなマットレスの上に移され、上からタオルケットを一枚だけかぶせられた。
 こうして、凌辱の日々が始まった……。

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