21

(確かここにあったはず……)
 郵便受けの内側に手を差し込んで探ると、カチャリと手に触れるものがあった。
「よし、いつもの場所にあった」
 カイトは周りに人影がないことを確認してそっと合い鍵を取りだした。
 一ヶ月ぶりに戻ってきた自宅は、電気も全て消えて静まり返っている。午前二時過ぎという時刻を考えれば当然だろう。
 自宅……というのは実際の所、正確ではない。叔父夫婦の家だ。
 実の両親が旅先の事故でこの世を去ったのが昨年のことで、今年の春からカイトは叔父夫婦に引き取られる形でこの田舎に越してきたのだ。
 学校から家までの距離は歩いて二十分ほど。
 夜道を素足で歩いてカイトは学校からこの家まで辿り着いた。
 ムラタの仲間が見張っていやしないかという心配は杞憂に過ぎなかった。途中ですれ違ったのは痩せた野良犬一匹だった。
 おかげで、体育着姿で道をウロウロしている姿を誰にも見咎められはしなかった。
 鍵を使って玄関扉を開けようとしたカイトだったが、そもそも扉は施錠されていなかった。
「ったく不用心だな。これだから田舎は」
 カイトは舌打ちした。
 田圃の真ん前に立ってるようなこの田舎くさい家がカイトは大嫌いだった。
 それでも咄嗟に足が向かった先はここだった。いまはとにかく自分の部屋で心の整理をしたかった。
 玄関をくぐって土間から廊下へとあがる。
 ギシギシと床板が鳴った。電灯のスイッチを入れて、カイトは二階へあがっていった。
 一階の寝室では叔父夫婦が寝てるはずだが、起きてくる気配はなかった。
 叔父達が起きてきたとしても、いまの姿をどう説明したらいいかカイトには分からなかった。
 自分の部屋の前まできたとき、壁にあいてた穴がなくなってることにカイトは気付いた。
 この家に来たばかりの頃、うるさく指図しようとする叔母の態度にキレてモルタルの壁を蹴り破った箇所だ。そこが綺麗に修復されてる。
「けっ! 直せるんなら、さっさと直してくりれゃいいのによ……」
 悪態をついて部屋の戸を開けた。
 暗い部屋の中で何かが動いたかと思うと、パッと天井の蛍光灯が灯った。
「ハハ。やっぱりカイト君だった」
「な、な……」
 目の前の人物にカイトは言葉を失って口をパクつかせてしまった。
 カイトの前に立っていたのはもう一人のカイトだった。
 もう一人の……カイト本来の姿をした、つまり男のカイトだった。
「そうか。君は何も事情を知らないんだものな」
「誰だ、あんたは」
「僕は見ての通り、カイトだよ」
「ふざけるな……カイトはオレだ!」
「まあ、そう興奮するなよ」
 男のカイトは勉強机に寄りかかると、机の引き出しから取りだしたタバコに火を付けた。
 紫煙が流れてきてカイトは咳き込んだ。本来のカイトに喫煙の習慣はない。
「さっきムラタさんから、連絡があったんだ。君がこっちに来るかもしれないって」
「ムラタの仲間か、てめぇ!」
「だから、興奮しなさんなって」
 ♂カイトはフウッと煙を吐くと、缶コーヒーの飲み口に灰を落とした。
「僕は君と同じ境遇なんだぜ。ムラタさんによって、本来の体から意識を移植されたんだ。この体に」
「……詳しく話せよ」
「まあ、立ち話もなんだ。君もくつろいだらいいよ。もとは君の部屋だったわけだし」
 ♂カイトは勉強机とセットになった椅子にどっかと腰を下ろした。
 カイトもその場で絨毯の上に胡座をかいた。
 ♂カイトの視線がカイトのあけっぴろげな股間に注がれていたが、カイトはそれに気付いてなかった。
 カイトの胸と股間を交互にちらちらと眺めながら♂カイトは話し出した。
「僕はもともと隣町の大学に通う学生だったんだ。ところがある日、偶然“研究所”から脱走した女の子を拾ってね。追われてるから助けてほしい、とそう彼女に頼まれたんだ」
「それで?」
「僕は重大事件だと思って警察に通報したよ。僕は知らなかったんだ。この鄙びた村であの“研究所”が特別な存在だということをね」
「警察がこなかったのか?」
「来たさ。で、駆けつけた警察官に変な薬を嗅がされて、気が付けば“研究所”に拉致されていたよ。あれは、偽物の警官だったんだろうな。あるいは本物の警官が協力してたのか。ま、今となっちゃどっちでもいいけど」
「あんたも女にされたのか?」
「いいや。僕は脳髄と神経系だけを取り出されて、薬液にプカプカと浮いてた。あれは地獄だな。視神経は接続されてるから外の様子は見えるけど、体は奪われた状態だ」
 その様子を想像してしまいカイトはゴクリと喉を鳴らした。
「人工的に苦痛を与えられたり感情を操作されたり、散々実験された挙げ句、自分の名前や住所の記憶まで消されちまった。
 一生そうやってモルモットにされるかと思ってたところ、ムラタさんの気まぐれでこうして君の体に移植してもらえたのさ。いや、体があるってのはいいことだよ、実際」
「ふざけるな! それはオレの体だ!」
 激昂してカイトは♂カイトに掴みかかった。
「おっと。叔父さんに聞いてた通り、典型的なキレやすい少年だな。いや、いまは少女か」
 ドンッと胸を突き飛ばされてカイトはよろよろと尻餅をついてしまった。
 女の身の非力さをカイトは恨んだ。
「僕がどうして君の『抜け殻』に移植されたかわかるかい? 君が消えたままじゃ不審に思う人がいるといけないから身代わりを務めてるんだよ。
 研究所との契約で、高校卒業後は僕の自由に生きていいことになってるけどね。
 それと、もうひとつ。僕は見張り役も命じられてる。本物の君が何かのはずみでムラタさんから逃げ出してきた場合、この家に立ち寄る公算が強かった。
 だから君を見つけたときはただちにムラタさんに一報入れることになってるんだ」
 ♂カイトがニィと笑う。
(嵌められた!)
 そう悟るとカイトは立ち上がって、一目散に逃げ出そうとした。
「ククク……」
 ♂カイトはあえて追う素振りも見せず、笑っている。
 カイトは部屋の戸を開け放って廊下に飛び出した。
 そこでカイトの足は止まってしまった。
 廊下を塞ぐように叔父と叔母が寝間着姿で立っていたのである。
「ほう。これが、あのカイトね。なるほど憎たらしかぁ面構えはそのままじゃ」
「ほんなこつ、男好きしそうな小娘のナリになって、まあ」
 かつてはカイトの暴力の前に小さくなってた二人が、別人のようにカイトを見下していた。
 カイトが二人いて、その片方が女であることへの驚きは微塵も感じられない。
「あんたら……どうしてオレのことを!?」
「頭ん弱か子たいね。ワシらは全部事情聞いて知っとうとよ。そっちの本当のカイトから教えてもろうたけん」
「本物のカイトはオレだ!」
 ♂カイトと同様、叔父もニィと嫌な笑いを浮かべた。
「ワシらにとって本物のカイトはあっちじゃけん。なんせ、あっちはバットで儂らを殴ったりせん。勉強もできるし儂らの言いつけをようけ守りよったい。可愛い甥っ子じゃ」
「そういう問題じゃねェだろ! 犯罪じゃんか、これって!」
「犯罪? 犯罪ちゃなんね。おまえんごつ戸籍もなか身分もなか小娘の言うこつば、誰が聞く耳持つとね?」
「う……あ……」
 叔父夫婦の態度を見てカイトは悟った。
 彼らは心の底からカイトを憎んでる。彼らにとっては、もう一人のカイトこそが本当の甥っ子に違いないのだ。
 いままでの自分自身の行いを振り返れば、当然の報いだった。カイト自身にさえそう思える。
 叔父たちのカイトを見る目つきは、うじ虫でも見ているかのようだ。
(そうだよな……オレ、愛されるようなことは何一つしてねェもんな……)
 この家のどこにもカイトに味方する者はいない。
 その認識にカイトは脱力してへなへなと蹲ってしまった。
 叔父の手がカイトの首根っこを掴む。
「ムラタさんトコに突き出すか」
(もう駄目だ……)
 カイトは観念して目を閉じた。
「待って下さい、叔父さん。そう性急に事を運ぶこともないですよ」
 意外にも♂カイトが叔父を諫めた。
 ♂カイトがやってきて子供でもあやすようにカイトの髪を撫でた。
「君がある特別な条件を呑むなら、特別に君のことをムラタさんに黙っててやってもいいんだぜ」
「特別な条件……?」
 ♂カイトは部屋の衣装箪笥をごそごそと探ると、ハンガーごと一着の服をとって戻ってきた。
「何だと思う? これなんと本物のメイド服だよ。“黒毛和牛”ってエロゲーのブランドがあるんだけどね、そこから発売された『はじめてのお手伝い』略して『はじてつ』の初回購入特典で応募してゲットしたメイド服なんだ!」
「てめぇ、オタかよ!」
 押しつけられたメイド服を苛立たしげにカイトははたき落とした。
「あー、ダメだよ。粗末に扱っちゃ……」
 ブツブツ言いながら♂カイトは廊下に落ちたメイド服を拾い上げる。
「これは君が着る衣装なんだからね?」
「ふざけんな」
「ふざけてないよ。さっきの条件ね。君が、この家の住み込みメイドとして働くことが条件。嫌ならいいよ。そのときは……」
 と、♂カイトは携帯電話を取り出す。
 脅しではなくいまにも♂カイトはリダイヤルボタンを押しそうだった。
 カイトは理解した。彼らにとってカイトは、いてもいなくてもいい存在。ムラタに引き渡したところで痛くも痒くもないのだ。
 途端にカイトは激しい恐怖に襲われた。
 あの凌辱の日々に戻りたくない。
 その一心で叫んでた。
「なる……なります。メイドにでもなんでもなります! だから、オレをこの家に……」
「ンン。ナイス返答。叔父さんたちも異存はないよね?」
 叔父夫婦は頷いた。
「よし、契約完了だ。さっそく君の名前を考えないとな」
「え?」
「だって、そうだろ。僕がカイトなのに同じ名前のメイドがいるなんて変じゃないか。そうだな……うん、『ポチ』にしよう。今日から君はポチだ」
「そんな……」
「ポチ。さっそくメイド服に着替えてもらおうか?」
「え、待ってくれ、その……!」
 ♂カイトが携帯電話をこれみよがしに弄ぶのを見て、カイトは命令に従わざるを得なかった。
 覚悟を決めると、体育着の上からメイド服をもぞもぞとはおった。
 紺色のパフスリーブのワンピースにフリル付きのエプロンが縫いつけられたメイド服は、実用よりも美観重視のデザインである。
 慣れない背中のファスナーや胸元のリボンタイの結び方に四苦八苦し、なんとか服に袖を通すと、さらに頭に付けるヘア・タイを渡された。
「それを頭に付けてなきゃメイドさんとは言えないもんね。本当はキューティーハニーみたいなチョーカーも付けて欲しいんだけど、君の場合、首輪が邪魔で無理だよね。残念」
 ♂カイトの中身が真性のオタクであることをカイトは確信した。
 叔父夫婦の目は相変わらず冷ややかだ。
「これでいいんだろう?」
 着替えを終えてカイトは恨みがましそうに♂カイトを見た。
「よし。その格好で両手をエプロンの前に添えてお辞儀して、こう言うんだ」
 口上を伝えられてカイトは一瞬、本気で殺意を抱いた。
 もちろん、いまの状況で逆らうことなどできはしない。
 カイトは屈辱に体をわななかせながら、観衆と化した三人の前で深々と御辞儀をした。
「……わ、私のような取るに足らない小娘をこの家に置いて下さるどころかメイドとして使って頂けるという望外の光栄を賜りましたことを深く深く感謝いたします。
 どうぞこの卑しいメイドに何時なりと何なりとお命じ下さい。必ずや御主人様がたのために不肖のメイドの身ではありますが、全身全霊を尽くす所存で御座います……」
 何度も舌を噛みそうになりながら忠誠の口上を口にしているうちに不覚にも悔し涙が出てしまった。
 涙を悟られないようにカイトはますます深く頭を下げ、顔を隠した。
「上出来だよ」
 と♂カイトが手を叩く。
 叔母は吐き捨てるようにいった。
「フン、お情けでおいてもらってること忘れるんじゃなかよ? 少しでもつけあがった態度とるようじゃったらすぐんでもムラタさんとこに引き渡すけんね」
「は、はい……」
 カイトは、叔母に向かってしおらしく頭を下げてる自分が信じられなかった。
 住み慣れた我が家でメイドの『ポチ』としての生活が始まったのである……。

 カイトの寝所は♂カイトの部屋の一隅に作られた。
 つまりは元々の自分の部屋に寝起きすることになったわけである。
 床に古物のマットを置いただけの一畳にも満たないスペースが寝床だった。
 ご丁寧に『ポチのベッド』と書かれたボードが側の壁に掛けられている。
 壁の出っ張りにメイド服をハンガーで架けると、カイトは与えられたタオルケット一枚にくるまって横になった。
 狭いスペースで丸くなって目を瞑ると、なんだかポチという名に相応しいペットにまで落ちた気分だった。
 それ以上思い悩む暇もなく、すぐさま猛烈な睡魔がやってきた。
 どんな形ではあれ、ムラタの監視を脱して身の危険を感じずに眠りに就くことができたのだ。
 久しぶりに夢も見ないほどぐっすりと眠った。
 次に目覚めたとき、すでに時計は八時を回っていて、叔父夫婦は家を出た後だった。
 叔父夫婦は共働きで、二人とも農協に勤めている。
 カイトを起こしたのは♂カイトの声だった。
「ポチ! ポチ子! いつまで寝てるんだ」
「……誰がポチだ……」
 目をこすりながら寝ぼけた声でカイトは応じた。
「君が・ポチ・だろ!」
 グイと首輪を掴んで強引に起こされ、行きがけの駄賃のように胸を揉まれた。
「あうっ、ああっ」
 ぐにぐにと乳房の感触を満喫する♂カイト。
 乳首のピアスとチェーンが擦れ合って音を発した。
 ♂カイトはカイトの体操着のすそをまくってカイトの生乳を露出させた。
 セックス人形の烙印ともいえるピアスとチェーンが♂カイトの目に晒される。耳のピアスは言わずもがなである。
「やっぱりな。研究所で飼われてた子は大抵こういうの付けられてたからな」
「放せよ!」
 カイトは♂カイトの腕から逃れようとしたが、まるで身動きがままならなかった。
 ♂カイトは平気で胸のピアスに指をくぐらせて弄んでいる。
 他人に見られてると意識するだけで乳首がふっくらと立ち上がってしまった。
「ポチは淫乱だな」
 その反応を見逃さず、♂カイトが揶揄する。
「違う……この体が勝手に……」
「うるさい、口答えするな。メイドのくせに寝坊した罰としてこのセリフを三度言え!」
 とカンペを渡される。
 カイトは自分の危うい立場を思い出して、仕方なくいわれた通りにした。
「ポチはイヤらしいメス犬です。ポチはイヤらしいメス犬です。ポチは……」
 内心では何度も「糞! 糞!」と叫んでいた。
「よし。分かったら、着替えろ」
 指図されるままにカイトはメイド服を着込んだ。
 髪留めに使うメイドのヘア・タイは寝る前に外すのを忘れていて、そのまま頭についていた。
「今日から、家人がいるときは特別な指示がない限り、常にその格好でいること。これもルールの一つだよ」
「はい……」
 憮然としてカイトは答えた。
 ふと、壁に貼ってあったポスターが目に入る。自身では貼った覚えのないものだ。
 アニメかゲームのポスターで、絵の中ではファンタジーの勇者がメイドを従者にして魔物と戦っている。
(こいつ、オレの部屋にこんなもん……)
 ♂カイトの趣味が良くわかる代物だった。
「さて、僕もそろそろ学校にいかなくちゃ。いまの僕は高校生だからな」
 ♂カイトはそっくりカイトになり代わっていて、学校にもまじめに通っているらしい。
 ♂カイトは思い出したようにカイトに一万円札を手渡してきた。
「僕が帰ってくるまでに、女物の下着をこれで揃えておけ。いつまでも薄汚れた体育着を下に着てるわけにはいかないだろ。ちなみにこれは命令だ。あと生理用品なんかも必要なら買っておくんだな」
「でも、外に出てムラタに見つかったら……」
「近所にサニーマートがあるだろ。遠くへ出歩かなきゃ心配ない。このブロックは僕がいることで、逆に見張りの網から外れてるんだ」
「あのさ……男物買ったらダメか?」
「あのねぇ。どこの世界に男物の下着つけたメイドがいるんだ。ポチ子のそのエロい体に合うような女物を買ってくること。いいね?」
「あン!」
 グリグリと指で乳房を押されてカイトは喘いだ。
 こんなときの反応が女らしくなってきてるという自覚はあった。ただ、自覚していても止めようがない。
「あとでちゃんとチェックするからな」
 念を押してから、♂カイトは学校へ出掛けていった。
 一人残されたカイトは、空腹を覚えて一階へと降りた。
 食卓にはパンが残っていたので、トーストにして食べた。
 女になってからは胃が小さくなってるらしく、トースト一枚と牛乳を飲んだだけで腹が一杯になってしまった。
 粗末ではあっても、久しぶりに人間らしく飲み食いをしたという小さな満足感があった。
 そのとき台所の開け放された窓から、学校のチャイムが聞こえてきた。
 カイトの高校ではなく、近所の小学校だ。
「うっ!」
 ずくん、と両脚の間に熱い疼きを感じてカイトはそこを両手で押さえた。
「ちくしょう……あの音聞くと、体が……あはぁぁっ」
 とろとろと秘所が潤ってくるのが見ずとも手に取るように感じられる。
 カイトの体は望まない条件反射を植え付けられていた。チャイムの音に反応して自動的に発情してしまう。それは自身の意志ではどうにもできない。
 乳頭がピンと立ち上がってメイド服の上からでもかすかに分かってしまうほどだった。
 熱に浮かされたような顔つきでカイトはスカートの中に手を潜らせていた。無意識のうちに胸のふくらみを食卓の端に押しつけている。
 股間のせつない疼きを散らそうとするように熱くほてった場所を指で擦った。
「ふぁぁぁぁっ! ああ……」
 足の指がきゅっと折れ曲がった。
 自分自身の反応でカイトは我に返った。
 浅ましく女の躰でオナニーしようとしてる自分に愕然としてしまう。だがそのときもう一度チャイムが鳴った。
「あぁ、嫌! ダメ、感じるなぁっ……ううっ、ああああぁぁぁ……」
 拒もうとしても否応なく強い疼きが襲ってきた。
 旧校舎ではこんなとき、すかさずバイブを挿れられていた。
 カイトの秘所がピクンピクンと物欲しげに蠢いた。
「くそぅ……セックス人形になるなんて嫌だぁ……くふぁっ!」
 快感に耐えようとしてキュウと脚を閉じ合わせた。それでも耐えきれず、両手で股間を強く圧迫して快感に応じてしまった。
「んっ……」
 小さなアクメの波が訪れ、カイトはかすかにだが切ない吐息をこぼしていた。
 理性の働きがなければこの場で全裸になって秘裂の中に指を突き立て、掻き回していただろう。
 発情した躰と理性がせめぎ合う間、カイトの指は布越しに弱々しく股間を押さえ込んでいた。そうしているだけで少しは楽だった。
 ひたすら体の火照りがおさまるのを待った。
 チャイムの音ひとつでこんなにも淫らに反応してしまう体は、まるでカイトのものではないみたいだ。
 首輪やピアスが示すように、カイトの所有者はいまだにムラタなのである……。

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