浅人8

うっすらと目を開く。眩い光が射し込んできて、殆ど開けなかったが。
「・・・っ」
頭が痛い。ガンガンと内側から叩かれているような感じ。それに加え、気怠い感覚が全身を覆っていた。
ただ、何か暖かいものに包まれていることはわかる。
(怠い・・・)
やる気がおきないのに、何かをする事もないだろう。再び目を閉じて、まどろみの中にその身を置く──
「先輩?・・・前田先輩!?」
それを遮ったのは、少女の声だった。突然鼓膜を響かせた音に、浅人は再び目を開く。そこに映ったもの・・・それは、よく見知った顔三つであった。意識が曖昧なため、まだ認識はできていない。
「浅人、気がついたか」
安心したような声が聞こえる。浅人は辛うじて声の方に顔を向けることができた。
「前田先輩、大丈夫ですか?」
三人目の声が掛けられた時に、靄の掛かっていた浅人の思考が、ある程度晴れた。
「・・・ああ」
そこにいた沢田、種倉、舞浜をやっとの事で認識して、それだけで安心したのか浅人は再び目を閉じる。
怠さが取れたわけではない。頭痛も引いていない。だからこその行動だった。
「私、先生と看護婦さん連れてきますね!」
舞浜は勢いよく立ち上がると、とても嬉しそうにはしゃいで退室していった。
(相変わらず元気な子だな・・・)
音と声だけだが、その様子は浅人の中ではっきりと思い浮かべられていた。
右手を額にずらし、視界を開けさせる。真っ先に飛び込んできたのは真っ白な天井と、赤い光だった。
「ここは・・・」
「病院だよ」
沢田の言葉にああ、と相槌を打った。成程、どうりで薬品の匂いがすると思った。
少し無理をして、浅人は上体を起こした。そこで初めて自分がベッドに寝ていたことに気付く。
完全に起こし切った後に、軽い眩暈がして頭を押さえる。それ程までに消耗し切っているのか。
「だ、大丈夫ですか?」
種倉の不安そうな声。それもそうだ、今の浅人の顔は真っ青で、唇も紫色に近い。酷く弱々しく見えるその姿は、種倉でもなくても心配する。
「ん、平気」
片方の手を挙げて返事を返す浅人。些細な動作ではよろけない。意識がはっきりしてきたようだ。
浅人は窓に視線をやった。自分の後ろにもあるが気にならなかった。窓から見える風景は、沈み行く夕日によって赤く彩られている。相当時間が過ぎていたようだ。
「私、どのくらい寝てた?」
「えっと、俺らが来た時は既に寝てたから、少なくとも二時か・・・え?」
沢田が言葉を止めた。目を見開いて、驚きの表情。種倉も同じ。その顔で、じっと浅人の顔を見つめている。
当の本人は、何で二人がそんな顔をするのか全く理解できていない。
「・・・何?」
「お前・・・今、何て言った?」
「え、だから、わた・・・」
ハッとして、浅人は自分の唇に触れた。信じられない。それが自然と口から漏れたことに。
『私』。今確かに、浅人は一人称を『私』と定めたのだ。
 ドクン
瞬間、浅人の中で急速に記憶が復元されていく。
 ドクン
自分の前で群れる男達。
 ド ク ン
自分の秘部を貫いている岸田。
  ド  ク  ン
そして・・・狂ったようにヨガっていた自分。
「っ!!」
突然、浅人は自分の両肩を抱いて俯いた。全身が震え、冷や汗が流れる。
それは恐怖か。絶望か。憎悪か。悲哀か。狂気か。歓喜か。渇望か。
「あ、浅人!?」
突然のことに、沢田と種倉が慌て始める。どうしていいかわからず右往左往してしまう。

医者が来たのは、その直後だった。
その後、沢田他二人は強制退室。浅人は医師の軽い診断を受けて、後一日は安静にしていろという判断を下された。
その晩、浅人は夢を見た。
男達が、自分を輪姦する夢。あろうことか、沢田や種倉までもが混ざっている、厭な夢。
悲鳴を上げた。絶叫に近かった。それが現実であれば、喉は張り裂け、赤き血飛沫が舞っていただろう。
しかし、所詮は夢の中。浅人の願いは聞き入れられる事はなかった。
次々と犯されていく。それを、自分が何と淫らに受けていることか。腰を振り、涎を垂らし。
夢だと気付いても、浅人はそこから抜け出せることができなかった。感覚が麻痺し、思考が働かない。
理性なんぞ無駄なものとして排除されていた。
悲鳴を上げた。悲鳴を上げた。悲鳴を───



翌々日、浅人は退院した。両親に迎えに来てもらい、自宅まで連れて行ってもらう。
──一言も口を開かず、浅人は自分の部屋に閉じこもった。
食事も摂らず、水も補給せず、風呂にもトイレにも出てこない。
両親は酷く心配した。いや、これで心配せずに親と言えようか。
我が息子‐今は娘だが‐が受けた屈辱も辛苦も、代わってやれることなど出来ない。声を掛けても返事一つ返さない浅人に、心が刻まれそうな感覚。

沢田が家に訪れたのは、その翌日の夜のことだった。
学校は現在、生徒同士のレイプという前代未聞な大事件によって一時休校となっている。
「浅人・・・引きこもっちゃって」
悲痛そうな母親の声に、沢田は顔を顰めた。心の傷は相当深い。・・・いや、深いなんてもんじゃない。
「すいません、浅人に会わせてもらえますか?」
「私からもお願いできるかしら。あの子、私達じゃ聞いてくれないの」
小さく頷くと、沢田は「お邪魔します」と言って家に上がった。
浅人の部屋に向かっている時に、母親がぽつりと漏らした言葉を、沢田は聞き逃さなかった。
「どうしてこんな事になっちゃったのかしら・・・」

「浅人、入るぞ」
鍵は掛かっていなかった。ドアノブを回し、扉を開く。中は真っ暗。
電気は点けなかった。浅人はきっと自分の顔を見られたくないだろう、と思ったからだ。
中に入って扉を閉める。まるで人の気配がしない。目を凝らし視線を配ると、ベッドの上に黒い塊。
「浅人」
声を掛ける、返事は無い。ベッドに向かって歩みを進める。部屋の中はそれなりに知っている。
「浅人」
再び声を掛ける。やはり無反応。ふう、と溜息を漏らし、ベッドの傍らに立つ。
「退院おめでと。これ、土産だ」
にこやかな表情をつくり、手に持っていたビニール袋を持ち上げて見せた。中身はコンビニで買った肉まんだ。
だが、反応はなかった。
目が慣れてきて、沢田は浅人の全貌をようやく見れた。膝を抱えて座り俯きがちな顔、視線は何処か一点をただじっと見つめているだけ。髪は結わえられてない。
「これ、ここに置いとくぞ」
机の上に袋ごと置いてから、沢田は再びベッドの傍らに移動し、膝をついた。
「どうした、元気ないな?」
浅人の顔を覗き込む。表情は、無。
「・・・ま、当然だよな」
沢田は床に座り、ベッドに凭れ掛かった。浅人には背を向ける形になる。
「・・・塞ぎこむよな、そりゃあ。誰だってそうだよな」
沢田も、視線を落として呟いた。どう話し掛けていいかわからない。
浅人がどんな目にあったか、沢田はそうした本人から直接聞き出していた。お礼に鉄拳をプレゼントして。
酷く心が痛む。ただ聞いただけの自分がこれ程ならば、浅人本人のダメージは計り知れない、と沢田は思った。男が女になり、なって三日目にレイプ、だ。想像できる方が凄い。
「・・・それで、いつまでそうしてるつもりだ?」
比較的、優しく話し掛ける。内心、怒るという感情がなきにしもあらずではあったが、それは傷心で掻き消されていた。
「先生にも、両親にも、俺にも心配掛けてな。お前らしくないぞ」
「・・・怖いよ」
沢田のその優しさか、それともその言葉に意味があったのか。浅人の心に感情が注がれ始めた。
「誰かが怖いんじゃない・・・自分が怖いんだ・・・もう、元には戻れない・・・引き返せない・・・」
浅人の言葉に感情は篭められていない。ただの言葉の羅列。まるで機械のよう。
沢田は目を閉じて聞いていた。その文字の羅列から、全てを汲み取るように。
「『俺』っていう存在が消えて・・・『私』っていう自分が自分を占める・・・よくわかるんだ。
『俺』がどんどん消えていくのが・・・」
浅人は膝で組んでいた手を胸の前で組んだ。体が震えている。視線は前髪で見えない。
「じゃあ・・・『俺』はどうなる?完全に消えてしまうの?それとも、心の檻に閉じ込められて、見えるけど手出しができないようになるの?」
言葉は完全に『女』の浅人であった。そのことに本人は気付いているかどうか。
「それに・・・『私』も怖い。生まれてたった数日で、どうしていいかわからない内に、ああして女として弄ばれた・・・それが、『私』をそれだけの存在にしてしまう・・・」
つまり、快楽だけに溺れる女になってしまうのではないか、ということだ。
『女』浅人と『男』浅人、二つの意識は浅人の中では別々なものとして捉えられていた。男は自分、女は他人。この体に、女が占められていく感覚に、浅人は恐怖しているのだ。
気がつけば、浅人の双眸からは大粒の涙が零れていた。ひとつ。またひとつ。
「怖いよ・・・こわい・・・こんなことなら・・・『私』なんていらない・・・『俺』なんていなくていい・・・もう・・・生きていたくないよ・・・」
今の一言は、沢田にとって喋ってはいけない一言だった。
「浅人」
沢田は振り向き、ベッドでむせび泣く浅人の両肩に触れた。ビクッと体を竦ませるが、抵抗はしない。
「浅人、浅人」
また名前を呼んだ。浅人の顔を上げようとしている・・・のではない。呼んでいるのだ、浅人を。
「浅人・・・浅人!」
最後に大きく浅人を呼びかける。その言葉で、浅人の瞳に多少感情が戻る。沢田からは確認できないが。
「・・・普段ならこの場でお前を殴り飛ばしているところだ」
沢田は、憤怒の表情を露にしていた。言葉にもその片鱗が伺え、浅人は更に身を縮ませた。
「生きれるやつが、生きていたくないっていうのは、それは死んでいく人に申し訳ない言葉だ」
沢田には母親がいない。沢田が子供の頃、癌で死んだ。父親の腕一本で育てられたのだ。命の大切さを嫌という程知っているのだ。
「お前はお前だ。前田浅人、お前以外の誰がそこにいる?負けるんじゃない。お前の強さはそんなもんじゃない」
誰よりも、そう、浅人本人よりも、沢田は浅人の強さを信じた。どんな時でも明るく笑い飛ばした前の浅人を思い浮かべて、必死に呼びかけていた。
だが同時に、人間の弱さも知っていた。
「挫ける時もある。倒れる時もある。そん時は、俺が支えてやる。だから・・・」
手を肩から浅人の頬に当て、浅人の顔を持ち上げた。やはり、抵抗はない。
そこにあったのは・・・涙に濡れた宝石と、美しい少女。
「生きていたくない・・・死にたいなんて、言うな」
沢田の真摯な表情を見て、浅人はぷっつりと糸が切れたように泣き出した。沢田の胸に飛び込んで、大声を上げて。
絶望の淵に立たされてもそこにいる。沢田の存在は、壊れかけた崩れかけた浅人にとって、唯一すがれるものだったのだ。これより先、どうなるかはわからない、が。
そんな浅人を、沢田は黙って抱き締めた。今はこいつの支えとなって、こいつが男に戻った時は、また切磋琢磨できる仲として、多分一生こいつと一緒なんだろうな・・・と、心に刻みながら。
───そうして、少しの時が流れて。
あらかた泣き終えた浅人は、ゆっくりと沢田から離れた。その表情は、笑顔。
「・・・ありがとな。助けてもらった」
穏やかなその声は、しっかり元に戻っていた。まだ鼻声ではあるが。
沢田はその言葉に首を横に振る。そして、笑って返す。
「いいって事だ。気にすんなよ」
ふと、沢田は浅人の瞳を見た。涙に濡れたその瞳に、沢田はドクンと心臓を高鳴らした。
(この前と・・・同じだ)
客観的に見ているが、実際は体に抑制を掛けていた。可愛い。キスしたい。奪い・・・たくはない。
「・・・どうした?」
余程思いつめた顔をしているのか、浅人は不思議そうに沢田の顔を覗き込んだ。だが、それがまずかったりする。
「浅人・・・キス、してもいいか?」
「・・・へ?あ、ん」
気付いた時には、浅人と岸田の距離はゼロになっていた。どうやら沢田は我慢が効かない人間らしい。
だが今回は、浅人は跳ね返さなかった。目を閉じて、触れるだけのキスに応えている。
ふっ・・・と離れ、暫し見つ合う二人。先に口を開いたのは、浅人だった。
「・・・やっぱり、女として?」
それは、浅人が抱える最も大きな不安だった。やはり、女としての自分にキスしたのか、と。
「・・・馬鹿だな」
沢田は微笑んだ。内心、自分も浅人と同じ疑問を抱いていた。女だからキスする。その事実は確かにある。だが、それ以上に沢田を占めていたもの。こんなクサイ台詞言うキャラじゃないんだけど・・・
と思いながら、「親友として、だ」
再び唇を重ねた。今度は浅人も求めていた。同時に、どちらからとも言わず抱き締めあう。
沢田の舌が入ってくるのを感じ、浅人はそれに応え自分の舌を絡ませる。ぬるり、とした感触。
「あ・・・ふ・・・」
岸田達の時とは違い、そういう事をするのに嫌悪感はなかった。勿論、『男』としての抵抗はある。
それは多分抜けることはないだろう。男に戻った時に女になりきってたらそれはそれで恐い。
だが、今の浅人は『男』として嬉しいと思う気持ちと、『女』として気持ちいいと思う気持ちが混ざり合い、微妙ながら絶妙なバランスで成り立っていた。心が温まる、そんな感じ。
「んん・・・む・・・」
今度のは長かった。舌を絡ませ、沢田の舌が浅人の口内を弄る。口内を犯される感じだが、やはり浅人は悪い気がしなかった。むしろ、もっとして欲しいという願望が強くなっていく。
熱い吐息と、微かだが二人には確かに聞こえる水音だけが、その空間を満たしていた。
「ん・・はぁ・・・」
唇を離すことなく、沢田は浅人をベッドに横たわらせる。そうしてから唇を離す。
結わえられていない髪は乱雑に散り広がる。そんなことなど構わず、浅人は上にある沢田の顔を見た。
「・・・綺麗だな・・・」
察して、沢田がぽつりと呟いた。浅人の緊張した心と体を解そうとしたのだ。
浅人はその言葉に赤面して応えた。男としては「綺麗」と言われても何ともないが、自分の体を褒められるのは嬉しい。
沢田は静かに浅人の服に手を掛け、脱がそうとした。
「だ、駄目っ」
しかし、すぐに浅人により防がれる。上着のボタンに掛けられた沢田の手を両手で押さえる。
恐いから、というのも確かにあることはあったが、それは根底の理由ではない。
「駄目か?」
手を止め、浅人の顔を覗き込む。浅人に不安を与えてしまったのかどうか心配したのだ。
キスしていいか、と聞いただけで、しかも答えを聞いていない。こんな行為にまで及んでいいものかどうか。しかし、沢田には我慢できなかった。柔な男である。
「あ、と・・・その・・・」
真剣な表情で見られ、浅人は反射的に出してしまった手をゆっくりと離した。代わりにシーツを軽く握る。
「・・・いいのか?」
沢田の確認に、浅人は頬を赤く染めて頷いた。
(やっぱり・・・される時は女だな、俺)
自分の行動で深く自覚した。だが、もう不安はない。いや、別の不安はまだ消えてないが。
浅人の頷きを合図に、沢田はゆっくりと上着のボタンを外し始めた。
そして、そこで初めて、浅人が何で拒絶したかがわかった。
「・・・お前な」
沢田の半分呆れた声。浅人は黙って俯くしかなかった。
浅人は下着を付けていなかったのだ。だから咄嗟に脱がすのを止めてしまった。
沢田は半分呆れ、しかしもう半分は感嘆であった。開かれていたカーテンから、丁度晴れて見えた月の光が差し込まれ、浅人の体を淡く照らす。白い肌が闇の中ぼうっと浮かんでいるような感じ。
「・・・綺麗だ」
再び賛美の言葉を掛けて、沢田は乳房の先端にキスをする。
「んっ・・・!」
ピクン、と軽く痙攣し、浅人は目をぎゅっと閉じた。突然の刺激に反応してしまった。
「・・・あ!」
だが、突然我に返ったかのように上体を起こそうとする。沢田は丁度胸を弄ろうとした時だったので、多少驚いてしまう。
「風呂、入ってないから汚いぞ」
慌てて体を起こそうとする浅人を、沢田は苦笑しながら優しく押し返す。
「大丈夫だよ」
上からおぶさるように口づけを交わす。そして、それを首筋へ。
「は、んっ」
ぞくぞく・・・と背筋を何かが走る感覚。沢田が首筋を舐めている。
それに遅れるかたちで、沢田の手がふくよかな胸に当てられた。そして、下から持ち上げ、優しく包むように揉み始める。
「はぁ・・・はんっ・・・」
目を閉じて、艶やかな吐息を漏らす浅人。暖かいのと、気持ちいいのと。
自分でした時とはまた違う感覚。他人に触れられてると意識するだけでも、何処か気持ちよさを感じる。
「はぅ・・・ぁ・・・は、ひぃん!」
体を捩る。沢田が既に勃っていた乳首を摘んだのだ。
「は、あくっ、んあっ!」
切ない喘ぎ声を上げて、浅人は仰け反った。痺れるような感覚は、我を忘れそうになる程だった。
(な、何で、こんなっ?)
半ば困惑している浅人。自身で弄った時よりも凄い快感が包んでいる。
首筋を舐めていた舌は、鎖骨、乳房と下り、再び乳首へと辿り着く。それと同時に、余った手をズボンの下に入れて、すすっと太股を撫でる。下着が引っ掛かる感触はなかった。
「あんっ、はぅっ・・・んあっ!」
さらに一際大きな嬌声。太股を撫でていた手が、股間に伸びてきたからだ。
 くちゅっ
手に付いた感触と、浅人の喘ぎ声で危うくかき消されそうになった水音が、沢田の記憶を呼び起こす。
「・・・濡れてる」
その言葉に、浅人の顔が茹で蛸の如く真っ赤に染まる。同時に、滴っていると告げられた秘部から、さらに熱い体液が流れ始めた。
(言われて・・・感じてる。言葉責めされてる・・・)
ドクンドクンと、高鳴る心臓は止まる事を知らない。相手が沢田だからだろうか、とも考える。
だが、そんな思考を吹き飛ばすように。
 つぷっ
「はひっ!!」
沢田の指が、浅人の秘裂を裂いて膣に入っていく。目を見開いて体を仰け反らす浅人。
「んあ、あくっ、あぅん!」
ぬぷぬぷと、沢田の中指が出し入れされる。ただの前後運動。それが、浅人にとって素晴らしい快楽を与えていた。
そんな風によがっている浅人を見て、沢田は内心ホッとしていた。手馴れたように見える手付きだが、勿論彼はこんな経験したことないし、童貞である。
暫く三点責めを楽しんでいた沢田だったが、暫くして口と手を乳房から離し、そっとズボンを脱がす。
「あ・・・」
小さく呟いた浅人の言葉は、沢田に届いただろうか。
やがて、浅人は一糸纏わぬ姿になった。何故か、下の下着すら身につけていなかった。
「・・・せめて下くらい着けてろよ」
沢田の呟きに、浅人は真っ赤な顔を更に赤くさせた。触れば熱かろう。
おもむろに、沢田がベルトを外した。チャックを下ろし、トランクスを下ろし、飛び出したものは。
「きゃっ」
思わず浅人が可愛らしい声を上げる程のものであった。天に向かって屹立する怒張。
両手を広げて顔を覆う浅人だったが、指の隙間からバッチリそれを見ている。
「準備は・・・いいか?」
浅人の股を軽く開かせ、その間に体を擦り込ませる沢田。そして、一物を浅人の秘部に重ねる。
瞬間、浅人の脳裏にあの時の光景がフラッシュバックする。一瞬、目の前の男の顔が変化しそうになる。
それを、頭を振って掻き消す。今、自分が重なろうとしているのは、愛しい男だ。
「んっ・・・いい、よ・・・」
最後は故意に女言葉にしてみせた。無理してる訳ではないし、自然と口から出たものだが、恐くはなかった。
 ぬぷっ・・・ずずっ
「んあ・・・あーーっ!」
浅人が口から放った言葉は、誰が聞いても間違いようのない嬌声だった。
体を仰け反らし、手は沢田の肩を掴み。浅人は全身を貫く快感に身悶えしていた。
「く・・・あさ、と・・・凄っ・・・」
歯を食いしばって、沢田は腰を動かした。浅人の膣内はとてもきつく、沢田のものを絞りとらんと、妖しく蠢いて離さない。
「ああっ・・・ふああっ!ふあぁぁっ!あくっ、だめ、だめぇ!」
駄目、と言いながら髪を振り乱して喘ぐ浅人。駄目なのは、快感に負けそうな自分の体であろう。
豊満、とは言えないが確かに大きい胸が心地よい程よく揺れる。
「お前のなか・・・凄、締まって・・・俺、すぐに・・・」
浅人の体を弄っているだけで限界まで張り詰めた沢田の肉棒は、既にはちきれんばかりの硬度をもっていた。
何かテクニックを知っている筈もなく、ただ腰を激しく動かし快感を得る浅人と岸田。それだけで、言いようのない感覚に包まれる。そして、かなり早いが二人とも既に限界であった。
「あ、イク、い、ク・・・出し、て・・・なかに、なかに出してぇぇぇっ!!」
その浅人の叫び声が、限界点突破の合図となった。きゅうっと、沢田のものがより締め付けられる。
「あ、さと・・・っ!」
 ドクンッ、ドクドクッ・・・
「あ、ぁ熱っ・・・!」
沢田の精液が、浅人の中に放たれる。それを全て飲みつくさんと、浅人の膣がぎゅうぎゅうと締める。
浅人を浄化するように、白濁した生命の印は浅人の中に出し尽くされた。
「あ、ぁ・・・」
どさり、と浅人の上に覆い被さる沢田。それを抱き締める浅人。
二人は今、互いの絆を深く深く確かめた。

そして、季節は巡り、夏───
「・・・九回裏、ワンアウト一三塁。一打出れば同点、一発出れば逆転サヨナラ」
スコアブックを叩き、少女は呟いた。そして、次の打者はその一発が期待できる打者だと、少女は知っていた。
『四番、サード・沢田君』
ウグイス嬢のアナウンスが響く。それに応えるように、一人のバッターが打席に向かう。
「・・・沢田先輩・・・」
少女の隣にいる、制服を着た生徒が小さく呟く。その呟きに、少女は不安の色を感じた。
「大丈夫だよ」
視線はグラウンドに向けたまま、少女は言い切った。
「沢田は打つ・・・って言うか、打たなきゃ殺す」
少女はニッと制服の女子生徒に微笑みかけた。その笑顔は、人を安心させる表情。

そして───

 かきぃぃぃん・・・

少女──浅人の呟きは実現した。
「これでベストエイトか・・・凄えな、ウチの野球部は」
冷静にスコアブックに逆転サヨナラ勝ちを記して、閉じた。視線を上げれば、グラウンドで袋叩きに合っている沢田・・・が見えない。
「やれやれ・・・この後は甲子園常連と戦うのに、呑気なこった・・・」
浅人は笑っていた。とても嬉しそうに、とても楽しそうに。
彼等の夏は、まだ終わらない。


<了>

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